オン・ザ・ミルキー・ロード

オン・ザ・ミルキー・ロード

セルビア/イギリス/アメリカ 2016
監督、脚本 エミール・クストリッツア

世界三大映画祭を制覇した経歴を持つボスニア・ヘルツェゴビナの監督兼俳優、クストリッツア9年ぶりの新作。

私は彼の作品をこれまで一度も見たことがないんですが、なんとも不思議な映画を撮る人だなあ、というのが見終わった後の率直な感想でしたね。

本作、いくつかの事実といくつかの寓話を織り交ぜた内容らしいんですが、ファンタジーと呼ぶには現実的過ぎるし、シリアスなドラマと言うには飄々とした質感が強くて、こりゃカテゴライズ不能だなと正直思った。

物語の背景にあるのは戦争です。

どこの国のどんな戦争であるのかは一切作中で言及されてません。

主人公は銃弾の飛び交う中、村から村へとミルクを運ぶ配送人。

あーこれはきっとミルク運んでる途中で手ひどい目にあったりとか、陰惨な死に直面したりとか、そういうパターンなんだろうなあ、と普通は考えると思うんです。

ところが全然違う。

主人公、ロバにまたがり、日傘をさして、すっとぼけたいでたちでのんびり村を行き来。

随所に挿入されるのは主人公が飼ってる鷹の舞うシーンであったり、アヒルが行進するシーンであったり、蛇が道行くシーンであったりの自然の営み。

かと思えばヒロインがふざけた時計台とドタバタを演じたり、パーティーに興じてスカートを翻し歌い踊ったりと、なにやら牧歌的というか、ユーモラスさが漂う。

戦争そのものが日常の一コマになっちゃってるんですね

とりたてて戦争だから、とそれを特別視している様子はない。

これは監督自身がボスニア紛争を実際に体験していることも影響しているのかもしれません。

戦争の暗部を重苦しくえぐり取ろうとするのではなく、戦争そのものを呆れて俯瞰するかのような達観がどこかあるんですんですよね。

ストーリーそのものは極めてシンプルです。

主人公が他人の嫁になるはずの女に横恋慕しちゃって、挙げ句に二人で逃げたはいいが、女は軍の将軍の恨みを買っていて兵士がわんさか追ってきた、ってな筋立て。

大枠でくくるならラブストーリーと言っていいのかもしれません。

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けれどどこか夢見心地なまま、すっとぼけたままでシナリオが進行していくんでね、徹頭徹尾現実味がないんですよね。

強いて言うなら追手が多国籍軍を示唆する風であることが、暗に皮肉っぽいなと感じられる程度。

監督、逃避行だからと緊張感ある演出に心砕いたりしません。

むしろ逃げゆく道行きであってすら風景の美しさや、二人の絆をどこかかわいらしく見せようと腐心。

そして迎えたクライマックス、最後にこういう絵を持ってくるセンスに私は少し感心したり。

羊の群れと地雷域と蛇。

はい、なんのことかわからないと思います。

ま、見てください。

神話的だ、とも感じたんですが、残酷さもいとわずのどかさの象徴とも言える光景を破壊していく行為に、秘めたメッセージ性を覚えたりもしました。

ラストシーン、静かに感動的だったりします。

ああ、こういうふうに戦争を切り取っていく作品もあるのだな、と私は思いましたね。

ぴんと来ない人も居るでしょうし、好みをわける作品かもしれませんが三大映画祭制覇は伊達じゃないと思える、個性あふれた一作でしたね。

あと、監督はノースモーキングオーケストラというバンドも組んでいて、音楽に対する造詣も深いようなんですが、それはこの作品にも反映。

バルカン音楽が強烈なパンチを効かせてます。

それもまた作品の魅力のひとつ、と言っていいんじゃないでしょうか。

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