ゲット・アウト

ゲット・アウト

アメリカ 2017
監督、脚本 ジョーダン・ピール

とても本業がコメディアンである人の初監督作だとは思えぬぐらい、完成度の高い1作だと思います。

シナリオが恐ろしく緻密なのにも舌を巻いたんですが、私が最も驚いたのは、主人公クリスが囚われの身となる事件の真相が明らかになった後で、前半のシークエンスが片っ端から意味を持ち出したこと。

あれ、これはどういうことなのかな?と小首をかしげた場面が、見終わった後でようやく解せた、ぐらいのことなら驚きやしません。

そんなのミステリやスリラーの常套手段ですし。

でもそれってせいぜいひとつやふたつ、多くてみっつぐらいだと思うんですよ。

あんまり不可解な場面が多すぎると見てる側が混乱しちゃいますしね。

この作品がすごかったのは、違和感を覚える場面を含め、なにげなく見過ごしてるシーンやさりげない会話のいくつかが、すべて「事件の真相を暗に語る、示唆する形」で周到に配置されていたことでしょうね。

全部が水面下でつながっていて、事件へと収斂するよう完璧なお膳立てがなされてるんですよね。

意味ありげなあのシーンがきっとヒントになってるに違いない、とかそういうレベルじゃないんです。

いうなれば、何もかもが「悪夢の罠」への欺き。

そしてさらに特筆すべきは、それが「欺き」であると一切観客に悟らせぬ巧妙なストーリーテリング。

監督、一足飛びに安っぽい脅かしや恐怖演出で間をもたせるようなことは一切しません。

ほんの小さなズレ、もやもやをじっくり丁寧に時間をかけ、増大させていく。

実質、中盤ぐらいまでホラー色なんて殆どありません。

なにかがおかしい、というのは観客にも伝わる、黒人のメイドが不気味だってのもわかる、けれどそれが怖さに直結するのではなく、ただ「いぶかしさ」をつのらせていくだけなんですね。

だからこそ事実が明らかになったときの衝撃が揺り戻しににも似て強烈なインパクトだったわけで。

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ぶっちゃけね、事件の真相のみに着目するなら「ちょっと三文SFはいってないか?」ってレベルでばかばかしさを感じたりもしなくはないんです。

けれど前述したお膳立ての鮮やかさと、小さな齟齬をひたすら積み上げて焦点をぼやかす演出の巧さがあるから、オチがどうであれ見事騙された快感のほうが勝ってしまう。

作品の設計図面の出来栄えが尋常じゃないですね。

練りに練られてる、とはまさにこのことだと思います。

また、人種差別問題を絡めた点も恐ろしくうまい、と言っていいでしょう。

現実に若い黒人がアメリカ社会において年配の白人からどういう風に見られているのか?を黒人目線で丁寧に描くことで、ある意味、物語をミスリードしてるんですよね。

いくら差別に根深いものがあるからって、そこまではやらないだろう、みたいな。

一級品のスリラーだと思いますね。

ホラーじゃなくて上質のスリラー。

余談ですが、人種差別そのものを正面からテーマにしたかったのなら公開されたバージョンではなく、BDに収録されていた「もうひとつのエンディング」にするべきだったでしょうね。

徹底的に救いはないですけど、もしあのエンディングだったら映画史に残る一作になったかもしれません。

必見でしょう。

ジョーダン・ピールは将来的に北米の北野武になるかも。

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