インポッシブル

スペイン/アメリカ 2012
監督 J・A・バヨナ
原案 マリア・ベロン

インポッシブル

2004年に発生したスマトラ島沖地震による津波被害を実話ベースで描いた作品。

カメラが追うのは偶然タイのリゾート地を訪れていたヨーロッパ人家族。

なんの予兆もなく襲ってきた濁流にすべてを飲み込まれ一家離散、その後の奇跡の再会までを5人それぞれの視点でとらえた内容です。

さて「奇跡」とか言っちゃうと、ついついどんな信じがたい出来事があって再会を果たしたんだ?と期待してしまいがちですが、そこはあくまでキャッチコピー、と考えたほうがいいでしょう。

有り体に言ってしまうなら全部偶然です。

ただまあ、偶然を偶然と感じさせぬ演出のうまさがあるんで、それなりにドラマチックだったりはするんですけどね。

「奇跡」に過剰な期待をかけすぎると、見終わってから「え?こんなもの?」って落胆する部分も出てくるかもしれない。

むしろ見るべきは、言葉も通じない異国の地において、母親は、父親は、そして子どもたちはどう災害に対処していったか?という点だと思いますね。

圧巻だったのは為す術もなく津波に飲み込まれ、命からがら廃墟と化したリゾート地に取り残される序盤のシーン。

私達が、明日もそこにあって当たり前のものと信じる文明のもろさ、頼りなさをこれでもかと活写。

わずか数十分間の地殻の身震いで、スマホもなけりゃ飲み物も食べ物もない、怪我してるのに薬も包帯もない、そもそもどこへ行けば助けを乞うことができるのかすらわからない状況に置かれる恐怖は、オープニングの楽園風なシークエンスと強烈な落差をともなって見るものを震え上がらせます。

監督はリアルに徹すべく、細心の注意を払っているように思いましたね。

変に誇張したり、小細工したりしない。

だから生き残れた喜びと、この先生きていけるのか?という不安の入り混じった家族の焦燥感がひしひしと見る側に伝わってくる。

そういう意味では、感動大作というよりドキュメントにこだわった内容、と言えるかもしれません。

で、やはり日本人なら、この作品を見て東日本大震災を想起しない人は居ないと思うんですよね。

津波が何を人から奪っていくのか、想像だけでは追いつかない部分を補足する、認識し直すきっかけになるかもな、と私は思ったりしましたね。

唯一ひっかかったのは、被災によって折り重なる死の克明な描写を避け気味なこと。

生き残った人間のドラマですんで仕方のないことなのかもしれませんが、あえて生と死を対比させてこそ被害の全貌が輪郭を帯びてくるのでは、と私は思ったりも。

ドラマを練り上げたいのか、事実を伝えたいのか、ちょっと迷いがあったのかもしれません。

それがこの作品の評価を中途半端なものにしている元凶でしょうね。

けれどまあ、見て損はない、と思いますね。

座したままでは知り得ぬことを知ることができるのも映画の役割の一端でしょうし。

スマトラ島沖地震について「知る」機会にはなるんじゃないでしょうか。

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