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2015年初出 とりのなん子
講談社イブニングKCDX 上、中(全3巻)

モーニング誌上で15年以上もの長期連載を誇るエッセイ「とりぱん」で知られた作者、初のオリジナル長編。

よく知ってる漫画家のつもりだったんですが、いざページをめくってみて軽く違和感、こんな絵を描く人だったんだ、と驚きでしたね。

「とりぱん」だと人物は簡略化されてますしね。

ちゃんとキャラクターを作画すると、こんな感じになるんだ、と。

画力の高さは申し分ありません。

絵が上手い人であることは、すでに「とりぱん」で証明されてますし、本作でもそれは疑いようはないんですが、ただね、言葉は悪いんですが「ちゃんとしたこと」によって、どこか無個性、いかにもな少女漫画出自のタッチになっちゃってることは否めないように思うんですよね。

うまいのに、皮肉にも「とりのなん子らしさ」が消失してしまったように感じられる、というか。

それが物語のシナリオ展開にも影を落としている、というのはいささか穿ちすぎた意見かもしれませんが、ベテランの仕事とは思えない妙なたどたどしさがあることは確か。

ユキオンナの伝説をモチーフとした伝奇もの、という題材の難しさもあるでしょう。

やっぱりね、この手の「地方の村に伝わる因習」を素材とした作劇って、もう諸星大二郎や星野之宣がさんざん開墾、掘削しつくしてマイ・ブランドとしているように思うんですよ。

そこは山岸凉子でもいいんですけど。

よほど奇抜なアイディアか突飛な着眼点でもないかぎり新規参入は至難の業。

盲目の巫女を鍵としたミステリアスな語り口に工夫の跡は伺えるんですが、どうしたって目新しさ、独創性は感じられない。

あと、ストーリーの進行が内容の割にはまどろっこしい、というのもあった。

エッセイだけでなく、オリジナルもやれることは充分伝わってきましたが、全10話ぐらいでコンパクトにまとめてしまった方が無難だったのでは、というのが正直な感想ですね。

ベテラン漫画家、ということで読む前からハードルを上げすぎてしまった部分もあるかもしれませんが、得意とするスタイルをあえて封印してしまったような印象もうけましたね。

次のチャレンジに期待。

もっと詩的で叙情性にこだわった内容のほうが作家性にマッチするのでは、と思ったりもしました。

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