僕だけがいない街

2012年初出 三部けい
角川書店コミックエース 全8巻

ベースにあるアイディアはバタフライ・エフェクト(2004)と同じだと思うんです。

本作では「再上映」という言葉で過去への時間遡行を表現してますが、成人である主人公の意識がそのまま過去の自分に憑依する仕組みも映画と同じ。

過去を改変することが現在を変えることになる前提で、連続殺人犯の正体を追う、というのが物語の骨子なわけですが、この作品の場合、そこに恋愛も親子関係も主人公の生き様も全部詰め込んで人生ドラマとしたのが強みでしょうね。

恋愛がメインテーマだったバタフライ・エフェクトと違うのはその点。

そりゃね、ぶっちゃけ目新しさはないです。

タイムスリップものなんて、古今東西を問わずに履いて捨てるほどありますしね。

犯人が誰なのか、早い段階で予想がついた、というのもありましたし。

ただ、サスペンスに主眼をおいたドラマ作りの撹乱、陽動として「再上映」を物語に絡めてきたのは秀逸だったと思うんですよね。

物語の筋道はある程度予測がつく、けれど、どの道を通って結果と結びつくのか、その予想が成り立たないことがスリルに直結していた、とでもいいますか。

読者を驚かせる仕掛けも豊富だったように思います。

6巻の展開なんて、こんなことしてどうする気だ、終われるのかこれ?!と焦らされましたし。

ま、正直言うと、もう少しうまくやれたのでは、と感じるところもあります。

昔から三部けいを知ってる身としては、相変わらず足りてない、と気になった箇所もあった。

けれど前作魍魎の揺りかごと比較するなら、実力以上のものを作者は紙面に叩きつけてきたと私は思うんですよね。

資質を問うなら、まず飛び越えられないであろうハードルを、集中力と努力で飛び越えてきたと言う意味でこの作品、評価したいですね。

さあ、次作が大変だ。

行く先をじっくり見守りたい気分ですね。

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