ベルギー 2016
監督 エリク・ヴァン・ローイ
ロフト(2008)がベルギー国内で爆発的大ヒット、2014年にはハリウッドリメイクも手がけたエリク・ヴァン・ローイ監督作品。
家族を人質に取られ、首脳会談のさなかにアメリカの大統領を殺すことを強要されるベルギー首相の苦悩を描いたサスペンスです。
シナリオそのものは実に練り込まれてる、と思います。
もし本当にこんなことが起こったら、という観点に立ったシュミレーションを緻密に重ねているであろうことは見てるだけでわかる。
なんとか事態を好転させようとあがく首相と犯人の、息詰まる攻防が実にスリリング。
アメリカの大統領を女性とした設定も世相に敏感だ、と思わせるものがありましたし。
2転3転するストーリーテリングも最後まで飽きさせないもの、といっていい。
質の高い作品なのは間違いないです、それは間違いなんですけど、私が唯一ひっかかったのは「なぜ首相?」という点。
そりゃね、首相が暗殺者だった!って滅茶苦茶斬新ですけどね、まず第一に「国家の首長たる人間が身内を人質に取られたからって自国の不利益になるようなことに手を染めるだろうか?」というのがまずあって。
そりゃ色んな国があるから中にはそういうトップもいるかもしれませんけどね、だからといって暗殺に手を貸すような人物が少なくともEU加盟国に存在するとはどうしても思えないんですよね、私は。
うちの国はトップがテロに手を貸すんすよ、と世界中に宣伝するようなものですから。
ファーストレディの命とその後の混乱を天秤にかけて、いややっぱり嫁のほうが大事、っていうような人物は首相を引き受けないんじゃないか?と。
わからないですけどね。
第二に、首相の警護、及びその家族の警護があまりにゆるすぎ。
安々と拉致されちゃってるんですよね、首相も家族も。
ベルギーのシークレットサービスはいったいなにをやってるんだ、と。
特に首相を送迎する車の不用心さときたら、とても安全対策がなされているとは思えない。
そんなことってありうるの?と。
結局、リアリズムを突き詰めていけばいくほど「首相が脅されている」という事実が現実味をなくしていくんですよね。
なぜこれが大統領補佐官とかね、No2にあたる人物じゃあダメだったのか?と、ほんと思います。
ちょっと主人公の立場を変えてやるだけで俄然リアルさは増したはずなのに「首相」としたばっかりに最後までのれないんですよね。
もしくはいっそのことエアフォース・ワン(1997)のように、無敵で屈せぬ首相をヒロイックに描くことを骨子とする、とか。
そっちのほうがむしろ違和感は少なかったかもしれません。
ハリウッドかよ!とつっこまれそうですけどね。
初期設定の失敗、それがすべてですね。
奇抜さ、珍しさを狙いすぎ。
ちゃんと面白いものを撮れるだけの実力はあるんだから目先の虚仮威しに執着せず、筋立てで勝負を、といったところでしょうか。
残念。