カナダ 2009
監督 ドゥニ・ヴィルヌーブ
脚本 ドゥニ・ヴィルヌーブ、ジャック・ダヴィッツ
1989年にカナダのケベック州モントリオール工科大学で、実際に起こった銃乱射事件をベースとした実話もの。
女性ばかりを狙って28人を銃撃、うち14人が死亡しているという凄惨な事件だったことを配慮してか、登場人物は架空、事件の概要をなぞる形で映画化されてます。
かの衝撃作「灼熱の魂」の前に撮られた作品で、国内でのメディア化は今回が初。
近頃話題作を立て続けに手がけて名声を高めるヴィルヌーブ監督の「ブレードランナー2049」公開に合わせて発掘してきたんでしょうね、きっと。
とはいえ地元カナダではジニー賞(カナダのアカデミー賞)歴代最多となる9部門を受賞した作品。
むしろこれまで日本で紹介されなかった方が不思議、といったところでしょうか。
ただそれも、実際に最後まで見てみると、劇場公開を見送った配給会社の気持ちもわからんでもない感じではあって。
地元ケベックではさぞかしショッキングな事件だったんだろうなあ、というのは想像がつくんですが、やっぱりね、日本に暮らす身としてはアメリカあたりじゃよくある事件だよね、といった感慨しかもてない。
つい先ごろもラスベガスで乱射事件があったばかりですしね。
「事件」そのものに対する受け止め方と、「事件を題材」とした映画に対する受け止め方はそりゃ、どうしたって違ってくるわけで。
映画の素材としちゃあ、異国の人間を振り向かせるほどの話題性には欠ける、と言わざるをえない。
また、監督、妙に淡々と「起きたこと」を追っていくんですよね。
まず犯人の動機や生い立ちにほとんど尺を割いてない、というのが事件の理解を深める上で観客を突き放してまして。
おそらくカナダじゃ大きく報道されたはずですから、そこをわざわざ掘り下げる必要もない、ってことなのかもしれませんが、事件そのものを知らない人間からしたら「犯人は頭のおかしいやつ?」としか映らないわけで。
結果、意味なく虐殺を売りとしたスプラッター系の映画と成立構造は全く同じになっちゃってる。
かといって血生臭さ満開なのか、というと、そんな過激なことができるはずもなく。
全編モノクロで、極力残酷描写は抑えた落ち着いたトーンがストーリーを支配。
おそらく描きたかったのは、降ってわいたような悪夢に人生を翻弄された人達の癒やされぬ心の傷だったんだろうと思います。
そこに説得力があったことは認めます。
でも、事件性の裏側にひそむものに言及したかったのなら、なにを描写して何を切り捨てるのか、その配分が不均等なような気が私はした。
実話ものは難しい、そんなことを改めて思った一作でしたね。
ああ、こういう映画を撮る人だったヴィルヌーブは・・と彼の手法を懐かしく思い出したりもしたんですが、昨今の活躍で監督を知った人が見たら若干肩透かしかも。
個人的には同じ初期作なら「渦」のほうが楽しめましたね。
事件を近い距離で知る人しか深い感銘を受けない一作、そんな気がします。