アメリカ 2016
監督 スティーブン・シャインバーグ
脚本 ブライアン・ネルソン
何の前触れもなく拉致、監禁され、奇妙な人体実験を密室にて強いられるシングルマザーの恐怖を描いたスリラー。
どうせありがちなシチュエーションホラーでしょ?などと、舐めてかかってる部分も割とあったんですが、結論から言うと全然違いました。
まずこの映画、ゴアでもスプラッターでもありません。
目を背けたくなるような痛々しい描写もなければ血しぶきが飛び散るわけでもない。
ましてや暴力的なわけでもエロチックなわけでもない。
序盤、うっすらと理解できるのは、どうやら背後に何らかの組織があるらしい、ということと、監禁の目的は主人公の肉体を素材としてなにかを成そうとしているらしい、ということ。
あからさまな犯罪行為であることは間違いないんですが、それが死に直結する凄惨さとイコールではないんですね。
とにかくですね、中盤ぐらいまで何が起こってるのか、全くわかりません。
閉じ込められた密室で、数人の医師らしき人物に取り囲まれ、主人公は主に薬物注射による経過観察を繰り返されます。
これがもうね、なんかわからんがやたらと怖い。
泣こうが喚こうが医師たちはなんの説明もしてくれないんですよ。
幾度も繰り返されてきた業務とばかり、淡々と作業を履行するのみ。
おぼろげに監禁の目的や実験の意味が見えてくるのは終盤なんですが、そこまでの流れはまんじりとも出来ぬ緊張感に満ちていて、一切の予断を許さぬ作劇だったことは確か。
そこはあの傑作ホラー、マーターズにもどこか通ずるものがあった、と言っていいでしょう。
で、肝心のオチなんですが、そっちの方向へ落とすのか、という驚きは間違いなくありましたね。
私なんかはこれもうSFじゃねえか!とすら思った。
すべてをはっきりとはさせないんです。
けれど、すべてをはっきりさせないことが、うかがい知れぬ闇を黒々と演出していたりもして。
見る人によっては突飛すぎる、スッキリしない、という意見もあろうかと思いますが、拉致監禁ものかと思わせておきながら、最終的には現実そのものを歪めてみせた手腕を私は評価したいですね。
一風変わったスリラーだと思います。
これはちょっとあなどれない、というのが正直な感想。
ノオミ・ラパスの体当たりな熱演も大きな見どころかと。