2016 香港/中国
監督 サモ・ハン・キンポー
脚本 チアン・チュン
サモ・ハン20年ぶりの主演監督作、として話題になった香港カンフー映画。
しかしそれにしても邦題がひどい。
いや、わかりますよ、あの頃のファンを呼び戻そう、という配給側の意図は。
でも原題THE BODYGUARDですしね。
これ、時代が時代ならケビン・コスナーとホイットニー・ヒューストンですよ、あなた。
それはそれで違うね、すまん。
なんかねー、余計な先入観を植え付けてしまいそうな気がしてならんのですけどね、私は。
というのもこの作品、若かりし頃のサモ・ハン一連の作品と違って、狙った笑いもなければコミカルなアプローチもほんの僅かしかないから、なんですよ。
どっちかと言えばシリアスかも。
なんせ主人公ディンは自分の不注意から孫を亡くした傷心の老人。
そのことが親子の間に溝を作って、一人娘からも絶縁されている。
さらには主人公、初期の認知症。
ほんの少し前のことが覚えていられない。
唯一の慰めは、隣に住む少女。
ギャンブル狂いの父親を嫌って、一人暮らしのディンになついている。
これ、同じプロットでヨーロッパあたりの監督が撮ったら重厚な人間ドラマにするしかない筋立てですよ。
まあ、もちろんサモ・ハンで香港映画だからそうはならないわけですが。
終盤にはじいさんの七面六臂な大活躍が待ってます。
この作品が、従来の勧善懲悪なカンフー映画と少し違うのは、要人を警護する中央警衛局のエリートであったディンが、前述したように「認知症である」という設定。
クライマックスでじいさん、昔取った杵柄で単身マフィアの本拠地に乗り込み、片っ端から悪漢どもを始末するんですが、実はこれ、壮大な勘違いだったりするんですね。
終盤でそれがあからさまになるんですけど「ちょっと待て、この大立ち回り、もし矛先が違ってたら大惨事になってたんじゃないか」と私はあとからちょっと焦ったりもした。
ボケてて無敵って、導火線に火のついたダイナマイト並に危険じゃねえか!と。
いまだかつて「認知症の老人」をこういう角度から捉えた作品ってなかったんじゃないか、と少し興奮したりもしたんですが、そこまで掘り下げるつもりがサモ・ハンにあったのかどうかはわかりません。
しかしながらサービス精神たっぷりにアクションを盛り込んだ従来の香港映画のパターンが、認知症というワードを加える事によって、色んな穿った見方ができる内容に化けていたことだけは確か。
これを斬新、と言い切るのには若干の戸惑いがあったりもするんですが、それでも斬新としか言いようがない感じ。
で、この作品がすごかったのは「斬新なだけで終わってない」ことに実はあって。
エンディング、たった数行のモノローグが涙腺を直撃します。
最後にこんなこと言わせるのかよ、ずるい!とあたしゃ号泣。
もうエンドロールが流れ出しても涙が止まらない。
してやられた、その一言ですね。
まさかデブゴンで泣かされるとは夢にも思わなかった。
決して完全無比な映画ではないと思います。
さすがのサモ・ハンも御年65歳なだけあって、格闘シーン、細かいカット割りと編集でごまかしたりしてましたし、ストーリーそのものに着眼するなら認知症の他に意外性はない。
でもね、それでも私はこの映画をサモ・ハンの集大成、と位置付けたいですね。
今のサモ・ハンだからこそ撮れた一作、として私は高く評価したいです。