哭声/コクソン

韓国 2016
監督、脚本 ナ・ホンジン

哭声/コクソン

韓国の田舎町で連続して発生した奇妙な殺人事件を追う、1人の警察官を描いたスリラー。

中盤ぐらいまでの展開を追う限りではポン・ジュノの「殺人の追憶」みたいな感じなのかな、となんとなく思ってたんです。

適度にコミカルなのもそうなんですが、誰もが怪しいと思う人物をいかにも怪しげに描写しながらも、実は裏がありそうなシナリオ進行がどことなく似てましたし。

私はきっと殺人に至る狂気を理知的、科学的に解き明かしてエンドマークなんだろう、とタカをくくってたりしてた。

まあ、横溝正史の亜流みたいなもんだろう、と。

ところが物語はそんな私の安直な予測を覆してどんどんあらぬ方向へと舵を切っていく。

祈祷師が登場してきてからぐらいですかね、あれ、これはなんか違う、と私が居住まいを正したのは。

祈祷師、突然お祓いと称して東洋版「エクソシスト」みたいなことをやらかしだすんですよ。

この連続殺人は呪いによるものだ、断定するんですな、彼は。

その後に至っては「殺を打つ」と称して陰陽師ばりに呪詛を送る儀式を始める始末。

もう、娘はのけぞって泣きわめくわ、鶏の首は飛ぶわの阿鼻叫喚で、ええっ、これホラーなの?と目を白黒。

その忌まわしさたるや、本格ホラーが裸足で逃げ出すほどの土着的な狂気に満ちていて、なんだか見ちゃいかんものを見てるような気になってくるほど。

やばい、これはちょっとややこしくなってきたぞ、と私は焦ります。

どうやら法廷で裁けない超常的な現象を事実として物語は決着を迎えるっぽい。

胡散臭くならなきゃいいが、とむくむく膨れ上がってくる懸念。

そして迎えたエンディング、もうね、懸念とか安い予断とか全部ひっくり返してですね、すごいところにストーリーは着地しました。

なんじゃこれ、と。

正直に言おう。

「結局誰が犯人で敵対者で、そこに呪術めいた所業があったのか否かすらわからない」と。

もちろん額面通りに受け止めるなら、犯人も協力者も、尻の座りが悪いなりにわかる仕掛けにはなってます。

けれど、それを見たまま納得してはいけない、と全力で作品が言外に語りかけてくるんです。

とんでもない裏というか、暗示するものが背後には隠されてそうな。

ヒントとなるのは冒頭で脈絡もなく示された「ルカの福音書24章」っぽい。

でもこの物語のどこにキリスト教が?と頭の中の混乱は増すばかり。

さじを投げました、私。

私の観察眼ではこの映画を読み解けない。

で、あれこれネットを調べてみたら、超絶とも言える解説を発見したんで以下にリンク。

映画『哭声 コクソン』感想と解説、考察 本作が描いた『カオス』の正体

完全にネタバレしてますんでご覧になる方はご注意を。

で、この記事を読んでですね、すべてに合点がいったんですが、一言だけ言わせてもらうならですね、「いったい何人の人間があの少ないヒントの中からこんな裏読みができるというのか」という話であって。

少なくとも韓国が、儒教社会であるのと同時にキリスト教も半端なく普及している国である、という事実を知らないと絶対にこの結論にはたどり着けないように思います。

もちろん私は知らなかった。

さらには監督であるナ・ホンジン、わざと観客の勘違いを誘発するようなシーン作りをあちこちでやってるんですよね。

代表的なのは祈祷師の呪詛に対して、日本人が呪詛返しをするシーンでしょうね。

これ、そもそもが呪詛返しだと思い込んだ時点で実は過ちだったりします。

兎にも角にも恐ろしく仕掛けが細かい上に、散りばめられたパズルのピースが実は別の意味を持ってたりもするってんだからたちが悪い。

はっきり言ってとても意地悪だと思います。

色んな事情を鑑みたとしても、もうちょっと親和性を高めるやり方があったのではと思わなくもない。

ただね、ぶっちゃけ「してやられた」というのは本音。

「この映画を見たまま素直に受け取ってはならない」と私に思わせた時点で、見事監督の術中にはまってしまったのは間違いない。

だって、含む意味があろうが暗示してようが知りたくないしどうでもいい、と思う映画もたくさんあるわけですから。

途中で警察の存在が有名無実化してしまったことや、156分というとんでもない長さに、どうなんだろ?と思ったりもするんですが、具体性のない呪術的悪意の応酬だけで最後まで物語を見せきった上で、エンディングがすべての事象を紐解く真相への糸口となる計算され尽くした作りは、誰にでも出来ることじゃない、と思いますね。

キリスト教における神話的世界を韓国社会の一農村に落とし込んだ怪作だと思います。

すべてを知って初めて唸らさられる異形の大作でしょうね。

映画好きなら、わかるわからないは別としてチャレンジしてみる価値はある、と思います。

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