デンマーク/スウェーデン/フランス/ドイツ 2011
監督、脚本 ラース・フォン・トリアー
巨大な惑星の衝突により、滅亡を余儀なくされた地球の最後を、対照的な姉妹の目線を通して描かれた一作。
題材はSFっぽいですが、その手のスペクタクルなド派手さや、世界の終焉をドラマチックに彩るハリウッド風の感動路線はほぼ不在です。
ストーリーの核にあるのは重い鬱病を患う妹と常識人な姉の根深い愛憎劇。
ほぼ人間ドラマ、と考えて間違いないように思います。
監督の出世作である「奇跡の海」の主人公ベスとその姉の関係性を別の舞台で焼き直した印象も濃いですね。
なんかわからんがトリアーは奔放な妹としっかりものの姉という相関図が好きみたいですね。
奇跡の海では妹の愚直な盲目さに神性を見出すことでオチをつけてましたが、今回も似た感じで妹は後半に至って預言者めいた神性を帯びてきます。
ただ、そこからどこか違う場所に物語を落とし込むことができたのか、というとそういうわけでもない。
結果から言っちゃうとですね、まあ、諦めて全部受け入れましょうよ、というのがストーリーの着地点としか私には思えなかった。
そこに退廃美とか終焉のカタルシスを見出す人が一定数いることは想像に難くない。
けれど私の感覚からするならこれは「丸投げ」ですね。
つまるところ、心を病んだ人間の願望にすぎない、というのは少し辛辣すぎるでしょうか。
精神的にキツイ時ってね、鬱病をわずらってる、わずらってないに関わらず、誰もが一度は夢想したことがあると思うんですよ「明日、地球が終わってしまえばいいのに」って。
いうなればそれを物語の体を装って、恐ろしく手間隙かけて映像化しただけなんじゃないかと。
死ぬに死ねない苦しみからの解放を、外部の偶発的事象が救いとしただけの話なんじゃないか?と。
物語に突然の終末をどう位置づけるのか、どう捉えるのか、といった考察はない。
なぜなら絶対的な異変によって終わることが主人公にとってはハッピーエンドだから。
もうね、ほんとトリアーは病んでる、と思います。
何があったんだ、その人生に、と思ってちょっと調べてみたら、ご本人自身が重い鬱病に長年苦しめられてきた、とか。
納得。
トリアーが自分自身を救済するために撮った内省的作品、というのが私の結論。
残念だけど私は共感できないし、作品として評価もできません。
そもそもね、地球を終わらせる前に主人公をいい医者に診せて、適切な治療を受けさせろよ、って話であって。
きちんと治療に取り組むこともなく結婚披露宴なんざやってる場合じゃねえだろう、と。
オープニングの超スローモーションを利用した暗示的映像や、キルステン・ダンストの語らぬ説得力が感じられる演技は素晴らしい、と思いましたが、なにを全肯定して、なにを自己弁護したいんだ、と私はいささかイライラしました。
やっぱりトリアーは私とはソリが合わない。
それが改めて感じられた一作でしたね。