イギリス/ハンガリー/フランス 2015
監督 ブラディ・コーペット
脚本 ブラディ・コーペット、モナ・ファストヴォールド
後に独裁者として君臨する男の少年時代を描いた家族ドラマ。
よくあることですが「心理パズルミステリー」だの「この謎を解き明かせるか」だの、煽りまくってるキャッチコピーは見当ハズレもいいとこです。
この作品、別段ミステリでもスリラーでもないから、うん。
サスペンスですらないかもしれない。
小さな謎解きが終盤にありますけど、それほど大したものじゃない。
そりゃもう地味ーにね、両親から愛されない少年の非遇を、わざわざ章立てして淡々と描写すること116分。
舞台は第一次世界大戦後のフランスなんですが、当時の世界情勢に関するうんちくを饒舌に語ることも監督は忘れちゃいない。
別にいいのに。
本筋とあんまり関係ないのに。
映像は妙に美しいです。
自然光を活かしたショットの数々に、はっ、とさせられることは数度あったんですが、それがシナリオののんびりとした歩み具合を違った風に見せてる、ってほどでもなく。
正直申しまして、寝オチしかかった事、数度。
で、何故そんなことになってしまってるのか、その要因を指摘することは簡単で「この作品が架空の独裁者の架空の少年時代を描いてるから」に他なりません。
例えばこれがヒトラーの少年時代を描いたものだったとする。
みんなヒトラーの暴挙を知ってるから、なるほどこういう屈折があって彼はあのような人間になってしまったのか、と誰しもが興味深く物語を追えるように思うんですね。
けれど本作に登場する独裁者って「独裁者である」という記号だけの存在で、彼がどの国において何をやらかし、どう民衆を弾圧したのか、まるでなにもわからない曖昧模糊とした存在なんですよ。
いうなれば「虚構」に「虚構」を重ね塗りしてるわけです。
そんな独裁者の少年時代を描かれたところでですね、偶像の製造工程を見せつけられるのにも似て、なんの実感も湧いてこないことおびただしいわけで。
また肝心のドラマがありがちなW不倫家庭という設定なのにも辟易。
そりゃこういう環境なら性格も歪むわ、と納得はできるんですが、それが独裁者を生むほどの特異性をはらんでる、とは思えない安っぽさで。
昼ドラをただ重厚に演出されてもですね、説得力は増さないわけです、やっぱり。
きっと暗喩するものや、さりげないシーンに隠された意味とかあるんでしょう。
でも探ってやる気になれない。
わかったところでどうなんだ、としか思えないというか。
唯一印象的だったのは音楽ですかね。
不穏で重低音な劇伴は、なにか得体のしれないものがせまりくるような禍々しさがあって単純にかっこいい、と思った。
多分誰も知らないと思うけど、フランスのチェンバーロックバンドART ZOYDのサウンドに似てる。
スコット・ウォーカーが担当してるらしいんですが、この手の映画のサントラらしくないのが小気味よかったですね。
まあ、総ずるなら意欲的ではあると思います。
あれこれやりたいことを煮詰めて熟考の上、撮影に望んでるのはわかる。
でも、肝心なところではずしてる。
監督デビュー作であることを鑑みるなら、光るものがなかったわけではないんで次がんばって、といったところでしょうか。