神経衰弱ぎりぎりの女たち

スペイン 1987
監督、脚本 ペドロ・アルモドバル

神経衰弱ぎりぎりの女たち

男からの突然の別れ話に慌てふためく女の2日間の狂騒を描いた、ちょいと毒あるコメディ。

まずなんと言ってもシチュエーションづくりがうまいな、これは、と思いましたね。

オープニング、男が女に別れを告げたのは電話の留守録。

長年一緒に暮らしてきたと言うのに、最後の言葉は「僕のスーツケースを管理人に預けておいて」。

女が話し合いたくとも男はどこに居るのかわからない。

かかってくるはずもない電話を待ちながら、女はひどく落ち込んで睡眠薬を貪り食ったり、ヒスを起こして自宅であるロフトを売る、とか言い出したり。

そこに彼氏がテロリストであることを偶然知った女友達が「助けて」と転がり込んできたり、男の前妻の息子がロフトを売るなら買う、とたまたま現れたり。

挙句には精神を病んだ男の前妻が「主人を返せ」と乗り込んできて、もう上へ下への大騒動。

2人だけの問題だったはずが、いつのまにか無関係な人物達が事態を錯綜させて、余計に絡んだ糸をほぐしにくくさせていく展開は、ドタバタコメディのお手本のようでなんとも楽しかったですね。

こりゃ密室劇でも充分通用するな、と思いましたね。

セリフ回しの小粋さとアクシデントの盛り込み方の巧みさがあるんですよね。

また監督、女性の揺れ動く心理を細やかに描くのがめっぽうやたらに上手。

見てて、ああ居るわこういう人、と納得することしきり。

映画だから、というんじゃなくて常に等身大なのがいい。

最後にきちんと物語の落とし所が用意されているのも見事。

お笑いでお茶を濁したままじゃないんです。

あんなに惨めったらしくて、一方的な執着と恋慕の塊だった女が、クライマックスではちょっとかっこよくも見えてきたりするんだからほんと大したもの。

洒脱の一言ですね。

どこか精錬された戯曲のようでもありました。

小ネタも満載で、適度にデタラメで、前妻と女のカーチェイスまであったりするんで、恋愛ものが苦手な人が見てもきっと楽しめると思います。

しゃれててスパイスの利いた一作。

さすがアルモドバル、よくできてる映画です。

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