アルゼンチン/スペイン 2016
監督、脚本 ロドリゴ・グランデ
下半身が不自由で車椅子生活を送る男が、偶然隣家で企てられてる銀行強盗計画を知り、その上前をはねようとあれこれ画策するお話。
家から銀行まで地下に穴を掘って金庫室まで行き着こうと隣人は計画するんですが、それがまるでTVアニメのようで子供っぽい、と感じた部分はあったにせよ、主人公が自分ちの地下室からその地下道に通づる穴を開けて小細工を弄する展開そのものは、ちょっと見たことのない感じの絵ヅラでそれなりに楽しめはしましたね。
足が自由に動かないのに強盗共からお宝をせしめるなんてできるのか?と物語の成り行きを期待させるスリルは充分にあった。
主人公の家に間借り人として女とその子供がやってくるシナリオ作りも上手いと思いましたし。
彼女らが火種でもあり、助けでもある、という役割にしたのは秀逸でしたね。
まあ序盤のクサい演出が玉に瑕だったりはするんですが。
中盤ぐらいまでは決して悪くはなかったように思います。
問題は終盤の展開。
ちょっとね、主人公の性格というか、人格みたいなのがよくわからなくなってくるシナリオ運びがあるんです。
ある不都合な事情があって、男は女に薬物を注射し、昏倒させ、ベッドにくくりつけてしまうんですね。
しかも数日に渡って。
車椅子生活だから監視もままならないし女を自由にさせておくことはできない、というのはよく分かるんですが、やってることはどう見ても悪役というか、ホラーやスリラーでおなじみのサイコ野郎そのものです。
こんなことされちゃあ例え悪意がなかろうとも女はもう絶対主人公を信用出来ないですよね。
で、それをふまえてラストシーンを解釈するならね、そんな風に大団円と物事がおさまるわきゃねえだろう!と、どうしてもツッコんでしまいたくなるわけです。
あまりに都合が良すぎて、女はどこかおかしい人なのか?ドMなの?と私は真剣にその神経を疑ってしまった。
いや、それなりにクライマックスは盛り上がるんですよ。
窮地に陥る主人公と強盗団のギリギリの駆け引きは見事伏線が生きた鮮やかなものでしたし。
でもそこに至るまでのエピソードの積み重ねにデリカシーがない。
だからサスペンス、コンゲームとしてはきちんとまとまっても、ドラマとしてはどこかちぐはぐな印象の残るものになってしまう。
簡単に言ってしまうなら片手落ち、でしょうね。
もう少し男の性善性を強調する演出があったら共感できる部分もあったかと思うんですが、この有様じゃあ、こいつはいざとなったら何をするかわからん危ないやつだな、という負のイメージが見終わってなおくすぶり続けるだけ。
悪人しかでてこない物語にしたかったわけじゃないでしょうし。
どう評価していいやら迷う一作ですね。
多分ちゃんとできたはずなのに色々配慮が足りなかった作品、といったところでしょうか。