ダージリン急行

アメリカ 2007
監督 ウェス・アンダーソン
脚本 ウェス・アンダーソン、ロマン・コッポラ、ジェイソン・シュワルツマン

ダージリン急行

相も変わらず延々すっとぼけた調子でいかにもウェス・アンダーソンらしい、とニヤリ。

仲違いしてた三兄弟が絆を取り戻すためにインドを旅する物語なんですが、キャラクター造形といい、随所に仕掛けられた細かいくすぐりといい、監督本人が楽しんで撮ってるのが伝わってくる内容でしたね。

ちなみに、ガハハハハ!と大笑いするようなシーンはほぼありません。

そこはもう、これまでにも増して落差意識してないですし、徹底してオフビート。

すごくこだわって作ってるのはわかるんですけど、笑いを外に拡散させようとするのではなく、ひたすら内へ内へと深化していく感じというか。

適切な例えかどうかはわからないんですが、私はなんだか出来の良い瓶詰めアートでも眺めてるような気分になりましたね。

よくぞまあ、一方向からしか手を加えられないのに、ここまでのものを狭い空間に作り上げたな、みたいな。

確実に精度は高くなってるし、監督の世界観に沿う意味で純度は上がってると思います。

なんだかわからんがとても好き、という人が多いのも充分納得できる。

ただね、それも言うなれば「瓶詰め」だから映えるのであって、瓶から出してしまうと普通に模型だよね、ってのはあると思うんですよ。

純化したことで何が失われたか、というと「ケレン味」だと思うんですよね、私は。

ライフ・アクアティック(2005)で散見されたばかばかしさ、ありえなさみたいなものが大きく減退したように感じたのはきっと私だけじゃないだろうと思うんです。

それが良いのか悪いのかはわかりません。

ガチャガチャした印象をなくすことで手に入れたものも確実にあるわけですし。

むしろ現実性を大きく逸脱しない分、こちらのほうがファン層を拡大するのに一役買っているような気さえする。

けどね、昔から彼の作品を知ってる身としては、もう少し羽目を外してくれてもいいんだよと、どうしても思ってしまうわけで。

いわゆる関西圏のお笑いで言うところのボケて、ボケて、ボケて、ボケて、ボケ倒してるのにも関わらず、ツッコミ不在って状況ですんでね、この映画。

もともとそういう作風、といえばそうなんですけど。

ことコメディにおいては、あえて破綻も介さず、ぐらいのほうが私は好きなんで、好みの問題なのかもしれませんけどね。

どちらにせよ、この作品を監督は今後の基点とするのではないか、と思いますね。

なんだか料理と器が双方の足を引っ張ることなく、ひとつの完成を見たように感じました。

まずはこの映画から見てみる、というのがアンダーソン入門としてはちょうどいいかもしれませんね。

エイドリアン・ブロディが妙に役柄にはまってていい感じです。

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