家族の灯り

ポルトガル/フランス 2012
監督 マノエル・ド・オリヴェイラ
原作 ラウル・ブランダン

家族の灯り

ポルトガルの巨匠、オリヴェイラ監督が御歳103歳でメガホンをとり、完成させた作品。

は?103歳?と驚かれる方がほとんどだと思う。

私も最初は誤植かと思った。

監督の半分も生きてない私のような若輩からすれば、100歳越えってのがもう想像の及ばぬ未知の領域ではあるんですが、とりあえずその歳でまだ創作意欲が残ってるってことだけでも驚愕ですし、やれる体力がある、という事実にも愕然ですね。

なんせ監督、初めて撮った作品が1931年。

昭和6年ですよ、あなた。

第二次世界大戦すらまだ開戦してない。

歴史の生き字引かよ!って話で。

映画監督という立場にある人間が激動の20世紀をその瞳でどうとらえたのか、非常に興味深いところなんですが、それを知るには彼のフィルモグラフィーを追うしかないんでしょうね、きっと。

多分、近年のものぐらいしか国内ではメディア化されてないんでしょうけど。

おそらくこれってギネス級の偉業だと思うんで、細かいことはとやかく言わずに、ただ「敬服します」でもう文章を締めたいところなんですが、 それをやっちゃうと、自分を偽らず忌憚のない意見を述べることを第一義とするこのブログの存在理由がゆらいでくる。

老いた馬に鞭打つようなまねはしたくないんですが、 正直に感想を書くことにしようか、と。

なんせ20年前の戯曲が原作なんで、その時代背景や世俗がどこを舞台にしたどういったものだったのかさっぱりわからないんですが、描かれているのはふいに姿を消した息子の帰りを待ちわびる老夫婦の日常。

ほぼ密室劇です。

ほとんど構図が変わらないまま固定カメラが夫と妻の諍いを延々写します。

で、これがですね、いちいちセリフが観念的というか抽象的というか、とにかくまわりくどいんですよね。

妻が息子のことで夫を責めているのはわかる。

けれど、そもそも息子はなぜ急に居なくなっちゃったのかがさっぱりわからないし、また夫が、息子のこととなるとなぜか急に言葉を濁しだすのがどうにもよくわからない。

見進めていくうちに徐々に全体像はつかめてくるんですが、その全体像をつかむまでがあまりに長い道のりな上、詳しくその背景を説くこともしないんで、私は数度寝オチしかけた。

いや、作品自体は91分とさして長尺でもないんです。

でもカメラワークの単調さと役者陣の動きのなさが起伏に乏しい語り口と相乗効果をなして、およそ睡眠導入剤状態とでもいいますか。

演劇ならこれでも良かったんでしょう、きっと。

その場のライブ感、臨場感ってのがありますから。

しかし画面の前に陣取ってる状態でこの一本調子な画はかなり辛い。

いやね、仄暗く、油絵を意識したかのような映像の色合いや美術はいい、と思ったんです。

独特な質感、雰囲気がある。

家の外で雷が鳴って、全員が押し黙るように外へ目線を向けるシーンでは、演出の妙を感じたりもしましたし。

ラストシーンにあれこれ考えさせられるものがあったのも確か。

けれど、それらを表現するためにはこの手法しか本当になかったのか?と言うのが私の最大の疑問。

100歳を超えた人間の撮れるようなシロモノじゃないことは間違いないです。

驚くべきことにいまだ秘めたる才気がギラリと抜き身を光らせていたりする。

しかしながらこれを、おもしろかった、とは私には言えない。

やはりどうしたって映画マニアのための1本という側面があることは否定できないかと。

決しておすすめはできませんが、オリヴェイラという監督の底知れなさを知る意味では手にとってみてもいいかもしれません。

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