デンマーク/カナダ/イギリス/ブラジル 2003
監督 ニコラス・ウィンディング・レフン
脚本 ニコラス・ウィンディング・レフン、ヒューバート・セルビー・Jr
興行的に大失敗し、レフン監督を窮地に至らしめたいわくつきの作品らしいです。
2015年、ようやく国内初DVD化。
「無限の恐怖。それが、この男の世界」などというキャッチコピーからはもう、オンリーゴッドクラスのやばいものしか伝わってこないわけですが、予感とは裏腹に物語はさほど難解ではなく、むしろシンプル。
なんの前触れもなく深夜の駐車場で突然妻を殺されてしまった夫が、わずかな手がかりを頼りに独力で犯人を探し出そうとするサスペンスだったりします。
まあ、 わざわざ過去に遡って照らし合わせるまでもなく、似たような題材の作品はもはや食傷気味に累々と屍をさらしてると思います。
そこに新鮮味はない。
ですんでこういったケースの場合、どうストーリーを転がせていくのか、興味はその1点に絞られてくるわけで。
死んだと思ってた妻が実は生きてた、とか、すべては夫の幻覚だった、とか、あらゆるパターンがやりつくされてるようにも思うんですが、そのあたり、これまでにないものを監督は持ち込もうとしているか、というと実はそうでもないんですね。
お得意の長回しで勿体つけてはいますが、残念ながらシナリオそのものにさしたる工夫はない。
それは作ってる本人も重々に理解しているのか、早々に事件の真相は明かされます。
じゃあなにに主眼を置いているのかというと、どうして妻が殺されなければならなかったのか?そのことに苦悩する主人公の内面及び、なぜ主人公の妻を殺す必要に迫られたのか?それを知る犯人の内面を、いかにじっくりと描ききるか、という点なんですね。
これはレフン監督お得意の原色な色使いや、意味不明のサイケで幾何学模様なシーンの挿入なども駆使して、心砕いた演出がなされているように思います。
なんかシャイニングみたいだなあ、と思ったりもするけれど。
でも、それはそれで悪くはない。
なにも意外性がすべて、というわけではないでしょうし。
わかっているのに胸を打つ、ってことは往々にしてあるわけで。
ありきたりだろうがドラマとして質が高ければ少なくとも私は満足した。
そうなる可能性もないわけじゃなかったんです。
やはりですね、問題はエンディングでしょうね。
煙に巻いたとか、わけがわからんとか、オチてないとか、あらぬ方向に着地したとか、これまで色んな酷評をぶちかましてきた私ですが、 このパターンはちょっと初めてだったかもしれません。
えー、一言で言うなら、放り投げた。
なんだこの「もうええやん、全部忘れてしまおうや」みたいなラストシーンは、と目が点。
ここまでカタルシス無視な締めって、ほんと珍しいと思います。
至極現実的、といえるのかもしれませんが、それをこの手のサスペンスでオチにして誰が楽しめるんだ、という話で。
せっかくあれこれ手管を尽くして盛り上げてきたのに自分で全部台無しにしてる、とはまさにこのこと。
そりゃ興行成績もふるわんわ、とひどく納得。
いいものもあっただけにスカされた感、半端ないです。
この人結局ドライヴだけなんじゃあ、という気もしてきた昨今。
手綱を握る人が必要な監督なんじゃ、と、作品を追えば追うほど思えてきますね。