アメリカ 2004
監督 ウォルフガング・ペーターゼン
脚本 デヴィッド・ベニオフ
ギリシャ神話におけるトロイア戦争を、原典にとらわれず、わかりやすく現代的に焼きなおした歴史巨編。
はて?トロイア戦争ってなんのこと?と言う人も、さすがに「トロイの木馬」(ウイルスのことではありません)や「アキレスの踵」ぐらいは知ってるでしょう。
そう、それら成句の元となったお話をとんでもないスケールで映画化したのがこの作品。
ブラッド・ピットとオーランド・ブルームという2大スターが激突したことでも話題になった映画ですが、私がまず感心したのは、ホメロスのクソややこしい一連の物語をよくもまあここまで痛快娯楽史劇に仕上げたことだな、という点。
うまかったのはブラッド・ピット演ずるアキレスを、国王の言うことすらきかぬ傾き者としてキャラ付けしたことでしょうね。
なんせアキレスときたら国家の威信をかけた決闘の舞台にすら、前夜の女遊びが過ぎて遅れるような人物。
しかしながら最強。
憤懣やるかたない国王を尻目に、敵国の大男をすれ違いざまにあっさり秒殺したりする。
なんだこのロックな無頼派野郎は、ってなもんです。
ここまでで序盤15分ぐらいなんですが、すでにもう目線はアキレスに釘づけ。
また、人の女房をかどわかした皇太子の弟のせいで2国間の大戦が勃発する、という大元のシナリオもすこぶるいい。
青二才の安い色恋のせいで10万からの兵士が命を賭して戦争するんですよ?
この無常観、やるせなさときたら、ちまちまと狭い世界で苦悩する至近な現代ドラマなんて見るのがばからしくなってくるほど。
しかもそれでいて大味じゃない。
きちんとそれぞれの登場人物が抱える懊悩であったり覚悟であったりを、取りこぼすことなく描写。
ぐっとくる名シーン、目白押し。
特にトロイの国王がアキレスにお忍びで会いに来る場面なんて、そのドラマ作りの巧妙さに舌を巻く。
そうそう、トロイの王子がアキレスとの戦いに出向く前に、自分の子供と顔を合わせるシーンも必見。
赤ちゃんがものすごい演技をします。
えっ?SFXなのか、これ?と目を疑うほどの。
大軍勢が砂浜で一斉に蜂起し、ぶつかり合うシーンも圧巻の一言。
いったい何人のキャストを集めたんだ、と目を疑う大迫力で人、人、人の渦。
まあ多分遠景はCGなんでしょうけど。
そりゃね、都合がよすぎる部分はあったりしますよ。
うまくまとめすぎだろう、と言う人も居るかもしれない。
でもこの手の神話を改変した王国ファンタジーもの英雄譚でここまでドキドキハラハラさせられる作品って、そうそうない、と私は思います。
オチがどうなるのかみんな知ってる物語を、飽きさせず最後まで見せきったことだけでも私は評価したい。
163分、あっという間。
ペーターゼン監督の統率力が冴え渡る一作、と言っていいんじゃないでしょうか。