1995年初出 羽生生純
エンターブレインビームコミックス
多分作者、初の長編作品だと思うんですが、これがもう相当狂ってます。
冒頭、 ボケて巨大化した婆さんが村を壊しながら進軍。
なんだこれ、気の触れた円谷プロかよ、なんの絵なんだよ、と思いきや、主人公はそれを取材する鬱病もどきの新聞記者。
不条理な現象や怪異をぶっこわれた新聞記者がお笑い混じりに滅茶苦茶する感じで各話進んでいくのかな、と最初は思ったんですが、そういう方向に行く、と見せかけて、ストーリーは何故かどんどん主人公の内面を掘り下げていく展開に。
新聞社のスポンサーらしき頭のおかしい老夫婦が途中でキーパーソンとして登場したりもして、もうね、なにをやろうとしているのかまるで予断を許さないんですね。
なんだかキャラとしての太宰治が荒唐無稽でシュールなSFのぬかるみに足をとられて七転八倒してるのを見ているかのよう、とでもいいますか。
一体どこをどうひねればこんな八方破れなプロットが浮かんでくるんだ、と。
で、やっぱり凄かったのは太宰も巨大化した婆さんも老夫婦も全部取りこぼすことなく収束し、最後にきちんと着地点を用意して見せたことでしょうね。
誰がこんな場所に物語を落としこむと想像しただろう、と私は思った。
野放図きわまりなくデタラメなんだけど、どこかひどく神妙にシリアスな質感があって。
なんでこんなマンガで「むくわれぬがゆえの救い」に思いを馳せねばならんのか、と私はあっけにとられましたね。
怪作です。
怪作ですが、これを物語として成立させた力業を私は評価したい。
現実を突き抜け、その向こう側を見せてくれる作者ならではの記念碑的作品といっていいんじゃないでしょうか。