籠の中の乙女

ギリシャ 2009
監督 ヨルゴス・ランティモス
脚本 ヨルゴス・ランティモス、エフティミス・フィリップ

自分の子どもたちを世俗や危険から守らなければならないという妄執に取り憑かれた父親によって、外の世界から完全に切り離された一軒家で生活することを強要される家族の肖像を描いた不条理なスリラー。

いかにして父親は自分の息子と娘に、自宅に閉じこもることを納得させたのかを裏付けていく描写は、非常に緻密で、そこに孕む狂気はとんでもなく薄ら寒いものがあったように思います。

いわく、自宅の外には危険があることを納得させるため、自作自演で血まみれ姿を演出する。

都合の悪い言葉は全てその意味を違えて理解させる。

特に空を飛ぶ飛行機をどう認識させるのかといったくだりなんて、ある種鳥肌でしたね。

ある程度の財力と知力があれば、ここまでやれてしまうものなのだ、と証明するかのような忌まわしさは、そこいらの3文ホラーじゃ太刀打ちできないほどの怖さがありました。

家庭というのはその通気性さえ閉ざしてしまえば一社会として成立するのだ、とでも言いたげな閉塞感は核家族が常態となった日本にも相通づるものがある、と感じたりも。

終盤、わずかなほころびによって父親が守ろうとしたゆがんだ楽園は崩壊の兆しを見せだすんですが、それが男の執着心に対する痛烈な皮肉になっているのも見事だったと思います。

父親はいったいなにを家族の関係性の中で育んでしまったのか。

そのいびつさたるや、 おぞましいの一言。

いささか残念だったのがエンディング。

想像させるものは過分にあるんです。

なにを伝えようとしたのか、その意図は汲み取れなくはない。

ただ、やっぱり言葉足らずな印象は残るように思うんですね。

どんでん返しは必要ない、とは思うんですが、この後味の悪さを些少なりとも緩和する、もしくは助長でもいいんですけど、強烈な見せ場が最後にひとつあればさらに評価は上がったと思うんですが、さて、どうでしょうか。

見てみる価値のある作品だと思います。

気分はどよーん、と沈みますけどね。

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