消えた声が、その名を呼ぶ

ドイツ/フランス/イタリア/ロシア/ポーランド/トルコ 2014
監督 ファティ・アキン
脚本 ファティ・アキン、マーディク・マーティン

消えた声が、その名を呼ぶ

1915年に起こったトルコ軍のアルメニア人大虐殺を物語のベースに、生き別れとなった娘を探す父親の孤独な旅を描いた重厚な人間ドラマ。

前半から中盤にかけて主人公を襲う悲劇的な運命の変転は、予断を許さぬ切迫感に満ちていたように思います。

どこかナチスドイツを題材にした映画をみているような感触も。

私が知らないだけで世界中で似たようなことが歴史上、繰り返されてきたんだなあ、と思わず嘆息でしたね。

なにもヒットラーだけじゃない、と知ることが出来ただけでも見た価値はあった、といえるかもしれません。

まず、もっとも評価すべきは主人公をハリウッド的なヒロイズム、性善性で染め上げず、生き抜くため、娘を見つけるためには手を汚すことも辞さず、身の丈に余る親切心など持ち合わせていない人物として描いたことでしょうか。

これが戦後の混乱したアルメニアを描写する上で恐ろしいリアリズムを作品にもたらした。

白眉は、戦災に家を焼かれ、テント生活を強いられる義姉と主人公が再会するシーン。

身ひとつで食事にも困窮する主人公はようやく身内に会えたにもかかわらず、義姉に何をしてやることもできない。

ただ弱った彼女を抱いたまま、途方にくれるんですね。

それをカメラは構図を変えぬまま、日の翳りを唯一の演出としてただ淡々と追う。

なんなんだこの虚無感は、と私は鳥肌が立った。

これほど戦乱の痛ましさを表現しきった画があったか、と震えた。

その後の顛末も予想は出来たがあまりに衝撃的。

もう、この時点で私の中ではなにを悩むこともなく名画扱い。

ところが、その確信が若干ゆらぎだしたのが実は後半でして。

娘と主人公は再会できるのか、が焦点となるわけですが、その道中がどこかただ消息を追うだけ、みたいな単調さなんですよね。

特にアクシデントもなく、思わぬ裏切りみたいなのもなく。

偶然任せにラストシーンまで突っ走ってしまう感じなんです。

だからせっかくのエンディングが微妙に盛り上がらない。

わざわざ主人公を口の利けない設定にしたのも生かしきれてる、とはいえない。

これを失速した、とは言いたくないんですが、前半の凄まじい緊張感に比べると、いささか冗長に感じられたのは事実。

アルメニアからアメリカまで単独で旅を続けることの困難、その苦労みたいなものを何故前半の丁寧さで描けなかったのか、ほんとそこだけですね。

いい映画だと思うんですが、アルメニア人虐殺をテーマとしたかったのか、父の執念の旅を物語の核にしたかったのか、若干定まらなかった印象。

その両方をやることもきっとできる力量のある監督だと思うんで、また仕切りなおして別の作品で楽しませて欲しい、と思う次第。

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