アメリカ 2001
監督、脚本 コーエン兄弟
嫁と義弟に仕事も私生活も支配されてる理髪師の、思わぬ出来心による転落を描いた悲喜劇。
モノトーンな映像が醸す質感がなんとも味わい深い、というのはまずありました。
一度カラーで撮った後にモノクロフィルムに焼きつける、という手法をとったらしいのですが、完全に白黒、というよりはどこか淡くセピア色で陰影がつぶれてないんですね。
シャープなのに温かみのある感じがする、とでもいうか。
どうなるのか計算してやったのだとしたら、1940年代のカリフォルニアを絵にする上で実に効果的だった、と思います。
シナリオそのものは処女作ブラッドシンプルの延長線上にある感じ。
杜撰な犯罪計画が思わぬ混乱を招く様子を皮肉とブラックユーモアで煮込んだ、ってな按配。
私がまずうまいなあ、と思ったのは主人公の描き方ですかね。
決して悪人じゃないんだけど、不器用で無口であるが故に上手に世間を渡っていけない男の、ささやかな野心と、彼が本当に望んでいたものを、事件の顛末に絡ませてそっ、と匂わせる手腕はコーエン兄弟ならでは。
もちろん、個性的な登場人物だらけなのは変わらずなんで、それがすべてじゃない。
サスペンスの体裁を装いながらも、きちんとドラマを堪能できるのがさすが、とでもいいましょうか。
物語の落とし所が一切の救いなしなんで、後味が悪い、なんだか嫌な感じ、と思う人もきっと居るんでしょうけど、私はそこに相応の帰結を見た気が何故かした。
ま、コーエン兄弟のマジックにはまっちゃってるんでしょうね、多分。
なんだか歳をとってから見るとおもしろく思えて仕方がない、というのが正直なところでしょうか。
万人にはきっとうけないんでしょうけど、このゆるやかな屈折ぶりはなんだかクセになる、とあらためて思う次第。