1995年初版 芦奈野ひとし
講談社アフタヌーンコミックスKC 全14巻
世界のゆるやかな黄昏を描いた終末SF。
昔読んだときの感想はなんだかぱっとしないなあ、でした。
地味にホームドラマでヤマなしオチなしか、と当時は思ったんですが、今回、一気に14巻まで通読してその認識が180度逆転した、という私にしては珍しい作品。
基本、メイド型のアンドロイドが主人の帰りを待ちながら、少しづつ海中に没していく横浜で喫茶店を営むだけの物語なんですが、特徴的なのは巻を重ねれば重ねるほど奇妙な詩情が全編を覆いだすこと。
それがなんなのか、言葉で上手に説明できないんですが、滅びゆくもの、失われていくものに対する愛情を過剰な説明やウンチクなしで切々と叙情的に訴えかけてくる「何か」があってですね。
ああ、切ないってこういうことなのかもなあ、と思ったりもしましたね。
即効性はありません。
しかもどちらかといえば地味です。
しかしこの作品には、ありがちなディストピアSFにはない「美しさ」がどこか存在します。
とりあえず、アンドロイドも個性である、の一文にはガツンときましたね。
今時珍しいほど情報量の少ないマンガなんですが、それ故希少である、とも言えるでしょう。
全くセリフのない回なんかもあったりするんですが、それでも妙に胸に迫るものがある、ってのはやはり尋常のセンスじゃないですよね。
マンガでしか表現できない優れたSFだと思います。
じっくり腰をすえて読むことをオススメ。
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