日出処の天子

1980年初版 山岸 凉子
白泉社 花とゆめコミックス 全11巻

どちらかと言えば短編の名手だという認識があるんですが、それすらさしおいて本作は歴史改変もの不朽の名作長編だと思う次第。

舞台は大化改新以前の日本で主人公は聖徳太子。

よくまあこんなプロットが花とゆめで通ったことだと思ったりもする。

普通ならこの題材、石ノ森先生の「日本の歴史」のような絵解きマンガに堕する危険性は過分にあったと思うんですが、山岸凉子は聖徳太子という謎の多い人物の人間像を大胆に再構築、脚色することによって本作を単なる歴史物になぞらえることなく権謀術策渦巻く人間ドラマとして見事成立させている。

誰が聖徳太子のかなえられることのないラブロマンスを描こう、と思いつくというのか、という話であって。

蘇我馬子との関係性をここまで大胆に演出したことにも感嘆。

正直男性読者は拒否反応が出る人がいるかもしれない。

だが本作を多くのやおいと混同してはいけない。

これは奇想が見事に歴史の闇に光を当てた作者にしか描けない架空伝奇大作であり、性のマイノリティに苦悩する一人の男性の永遠に報われぬ悲嘆を描いた歴史大河ドラマである。

見えざる仏の存在、怪異の描き方も秀逸。

問答無用で必読の傑作でしょう。

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