萩尾望都作品集 第Ⅰ期

萩尾望都作品集 第Ⅰ期

1969~73年初出 1巻 ビアンカ
<収録短編>ルルとミミ/すてきな魔法/クールキャット/爆発会社/ビアンカ/ポーチで少女が子犬と/ベルとマイクのお話/雪の子/千本めのピン

萩尾望都の最初期の短編を集めた一冊。
80年代の作者の作品に慣れ親しんだ身としてはまあ、正直言って古い、とは思います。
絵柄も、ストーリーも、プロットも順当に少女マンガ。
その中でも異色作、と言えるのはやはり「ポーチで少女が子犬と」か。
たった12ページの短編なんですが、残酷にSFでなんですね。
後の作風を予感させる表現はすでに萌芽してますが、いきなりここからはいるはちょっときついかもしれないですね。
実際、ファンであるはずの私ですらきつかったですし。
すでに評価の定まった名作に触れた後で読む分には、物語の底抜けな明るさや、らしからぬキャラの躍動感が興味深く思えるかもしれません。
ファン向きですね。

1972~75年初出 10巻 キャベツ畑の遺産相続人
<収録短編>ママレードちゃん/キャベツ畑の遺産相続人/オーマイケセィラセラ/ハワードさんの新聞広告/ユニコーンの夢温室(原作:イケダイクミ)/ハローイングランド

作者のコメディタッチなアプローチを満喫できる短編集。
ありていに言えばラブコメなんですが、広義のラブコメと混同するとそこはやはり少女マンガなので違和感を感じるかもしれないですね。
ラブコメを描かせてもやはり萩尾望都はなにか違う、と言いたいところなんですが、それを検証できるほど当時の少女マンガを熱読していないので語る言葉が出てこないですね。
この手の描写にすら、御大手塚治虫の影響が意外にも透けて見えるのが発見と言えば発見。
どうしても古く感じる、というのはさすがにあるかもしれません。
 おもしろくない、ってことではないのですが。

1974年初出 11巻、12巻 トーマの心臓

映画化に舞台化、ノベライズまでされた名作と名高い作品ですが、まあはっきり言っていい歳をしたオッサンが真面目に読むには相当きついものがあるのは確か。
というかオッサンが真剣に読んでいる絵が怖い、というのが正解か。
まあ、どちらでもいいんですが。
本作、この頃作者が好んで題材にしていた一連のギムナジウム(寄宿学校)ものに属する物語で、身も蓋もない言い方をするなら少年愛の物語です。
見事なまでに女性は登場しない。
性に未分化な少年達の幼い恋心が赤裸々に描かれてるんですね。
ストーリー、その世界観の磁力みたいなものは凄まじい、と思います。
1人の少年の死に端を発する閉鎖された世界でのドラマは到底やおいごときが太刀打ちできぬ重厚さで、触れれば壊れてしまいそうな少年の心の機微が鮮やかに描かれており、作者ならではの卓越したセンスと技巧が突出して光ってると感じるんですが、それでもこれ、普通に少女がヒロインじゃやっぱり駄目だったのかしら、と私なんかはどうしても思ってしまう。
 駄目なんだろうなあ。
多分こういう事を言ってる時点で多くの信奉者から「こいつはまるでわかってない!」と思われてるんでしょうね。
でもやっぱりこの作品って女性のための物語だと思うんですよ。
少女マンガファンが夢想するお耽美さ、インモラルさにある程度共感できる素地がないとおそらく作品の魅力は半減することと思われます。
多分、感受性豊かな若い頃に読むべき一作。
あーもー、どいつもこいつもうじうじと面倒くさいっ!!なんてつっこみたくなる大人は触れちゃあいけないんです。
巷で言われる、普遍的な愛を描いた傑作であることは否定しませんが、私にはいささかリリカルで繊細すぎましたね。

1972年初出 6巻~9巻 ポーの一族

漫画史にその名を残す名作。
20年ぶりぐらいに再読したんですが、こりゃブラムストーカー以降、あまたの吸血鬼を題材とした作品の中でも抜きんでて傑作だ、と思った次第。
多くの、いわゆる吸血鬼ものはSFバイオレンスであったり、もしくはホラー的な演出に比重を置きがちですが、その怪物性に着目するのではなく、永遠の命を得た少年の異形の悲しみを吸血鬼という存在を通して描く、という試みをしたのは本作しかなかったように思いますね。
人間を超えた能力が吸血鬼の実存を支えるのではなく、むしろその内面に深く根を下ろしているのは終わらない時間との戯れであり、老いと無縁な少年の日々である、とした設定は革新的。
確かにお耽美で、少年愛に抵触するようなシーンも多々あり、そこに拒絶反応が出る人がいるのもわからないでもないですが、だから敬遠する、ってのはあまりにもったいない。
第1話のおもしろさときたらこれだけ手当たり次第にあれこれマンガをむさぼり読んでる人間の目からしても鳥肌もの。
萩尾望都初期の大作であり、吸血鬼ものの異端のロマネスク。
単行本4冊分ながら何百年もの時間を自在に行き来する物語はもはやサーガと言って良いスケールとボリュームです。
読むしかないでしょう。

1975年初出 13巻 11人いる!

少女マンガ初の本格SFと評価の高い作品ですが、それもうなずける内容。
手塚先生の短編に似たような話があったような気もするんですが、本格的なのはこちらの方でしょうね。 
正直、今読むと小道具やら造形は古いと感じますが、10人しか搭乗を許されていないはずの宇宙船に11人の乗組員がいることに端を発するサスペンスタッチの展開は予断を許さず実にスリリング。
80年代以降の唯一無比で孤高な萩尾SFと比較すると、まだ開花前夜な印象は否めませんが、秀作だと思います。
併録されている「精霊狩り」「ドアの中のわたしのむすこ」「みんなでお茶を」は人間とは否なる長寿な亜人種の存在をコメディ調に描いた設定を同じくするシリーズ。
ポーの一族か。
重くなりすぎないのがいい感じ。
萩尾SFの原点、といってもいいかもしれません。

1976年初出 14巻 西の地平、東の永遠

11人いる!の後日譚。
前作はミステリタッチの宇宙SFでしたが、本作は舞台を架空の連星アストリカ・レ、アストリカ・ラに移しての異世界ファンタジー。
中世的世界観に支配された星で王族の権力闘争に前作の登場人物であるタダとフロルが巻き込まれる、というストーリーなんですが、これがよくあるパターンのお話ながら実によくできてるんですね。
この手の設定って、今でこそライトノベルを筆頭にあちこちにあふれかえって腐臭をはなってますが、初出76年と言うのを考えるとRPG以前なわけで、こりゃ相当早かったのでは、と思います。
スターウォーズですら77年。
漫画の分野では嚆矢たる一作ではないか、と。
前作で作り上げた世界観をきちんと踏襲して、ここぞという時にストーリーで生かしているのも素晴らしい。
古典的ではありますが、SFファンタジーとして完璧だ、と私は感じました。
タダとフロルのコンビで連作して欲しい、と思いましたね。
個人的には11人いる!よりも好きですね。 

1975~76年初出 17巻 アメリカン・パイ
<収録短編>アロイス/アメリカンパイ/白い鳥になった少女/赤ッ毛のいとこ

「アロイス」は二重人格をテーマとしたスリラー。
これ、山岸涼子が描いてたらじっとりと陰湿なホラーになってたと思います。
そうならない料理の仕方にこそ萩尾望都の凄さがあるわけで。
近年のジャパニーズホラーブームで使い回されてたネタを、すでに75年にもうやってる、と言う意味でも見逃せない一作。
「アメリカンパイ」は作者にしちゃあベタなお涙頂戴。
特にひねりもなく普通に悲劇で意外な感じ。
「白い鳥になった少女」は寓話。
ちょっと説教臭い印象も。
「赤ッ毛のいとこ」は連作コメディ。
この頃の作者の有名な作品は外国が舞台のものが多かったので、私は逆に新鮮に感じました。 
ファンなら充分楽しめる一冊だと思います。

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