忘れ苦兵衛

忘れ苦兵衛

1982年初版 小池一夫/神江里見
スタジオシップ劇画キングシリーズ 全6巻

死んだ妻の霊が取り憑いたまま離れない京都六角牢屋敷の雑色、苦兵衛が遭遇する事件の数々を描いたオカルト時代劇。

「幽霊と牢役人」という取り合わせを「時代劇でやる」という発想は面白いと思います。

妻の霊が祟るものではなく、うしろの百太郎のように夫を幽界から助ける存在として描かれているのも良く出来てる。

今で言うところの心霊探偵事件簿みたいな体裁なんですよね。

この世あらざる力をもってして、解き明かせぬ謎を暴き、事件の解決を図る、みたいな。

普通はこんなことやると間違いなく胡散臭くなって、ネオ時代劇だとかSF時代劇だとか言われた挙げ句、設定そのものが足かせとなってグダグダになってしまいそうにも思えますが、そこは小池一夫、時代劇におけるリアリズムの構築に隙はなく、読者を冷めさせません。

物語の土台が堅牢なんで、多少の荒唐無稽も許容できちゃうんですね。

江戸に生きる人達にとって怪異とはどういう現象であったのか、モダンになりすぎてないのもいい。

当時の幽霊譚であり、怪現象なんです。

そこに余計な背伸びはない。

ただね、オカルトそのものをどうロジックで解き明かしていくのか?という点において、いささか小理屈をこね回し過ぎなのが玉に瑕でして。

シンプルに、妻の幽霊が助け舟を出す、ぐらいで良かったと思うんですよ。

法力の強い和尚やら仏教やら九字護身法やら、あれこれ途中で持ち出してくるんで、どんどん縛りやルールが増えて、中盤以降、妻の幽霊自体が神秘性を失い、あんまり使えない面倒な異物、みたいな感じになってきちゃうんです。

これはカタルシスを得にくい。

オカルトを肯定してるのに、自分の手で「幽霊の正体見たり枯れ尾花」とばかり、全部白日のもとにさらそうとするんですよね。

もうこれは資質なんでしょうね、多分。

ホラーやSFに必要な「想像の余地」を設けることが出来ないんだと思う、この人は。

手の込んだ作劇ですし、プロットも独特だと思うんですが、悲しいかな、それが読み応えにつながらなかった一作。

どちらかというとファン向けですかね。

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