おろち

1969年初出 楳図かずお
秋田文庫 全4巻

不老不死で不思議な能力を持つ少女「おろち」をタイトルに冠しておきながら、何故か本人を狂言回しとして描いたオムニバス形式の連作人間ドラマ。

この「おろちが狂言回しである」というのが本作のキモだと思います。

なんせ掲載誌は少年サンデーですし、普通ならおろちを大活躍させて物語の当事者とするのがあたりまえだと思うんですね。

ところが楳図先生はおろちに様々な人間模様をそっと見守らせるだけにとどめたりするわけです。

そこに浮き彫りとなるのは目を背けたくなるような人間の暗部、嫉妬であったり猜疑であったり復讐心であったり。

完全に子供は置いてけぼり。

誰がこんな高度な心理ホラーを少年誌でやれといったか、という話であって。

つくづく70年代は恐ろしい、と思います。

中には映画にしてもおかしくないくらい、フィルム・ノワールなやるせなさを体現した作品もあるほど。

おろちを不老不死に設定したのは長い時間の経過を必要とする物語を、あえて傍観させることで結びとするためなのでは、なんて思ったりも。

その超常能力もしかり。

恐ろしく読み応えがあります。

なんて人というのはままならないのだろうと、とても漫画の読後感とは思えぬ重々しい感情が後をひいたりしますが、間違いなく代表作のひとつとしてカウントされるべき傑作だと思いますね。

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