乾いて候

1981年初版 小池一夫/小島剛夕
双葉社アクションコミックス 全8巻

将軍家お毒味役として8代将軍吉宗に召された唇寒流の達人、腕下主丞の活躍を描いた時代劇。

小池劇画でお毒味役、とくれば、かの子連れ狼で強烈な印象を残した安部頼母がすぐに思い出されるわけですが、今作の唇役は絶世の美男子で、頭も切れ、しかも将軍の隠し子、という設定。

こんな滅茶苦茶やれるのはほんと小池一夫しかいない、と思います。

どう考えても荒唐無稽にしかならないだろうと思われるプロットなんですが、これがさして違和感を感じることなく真に迫っておもしろいんだから本当にたいしたもの。

吉宗の実子でありながら命を賭して父の政敵を葬り去る役目を担う、という筋立てがまずは巧みだ、と私は思いましたね。

跡継ぎとして次の将軍と目されるはずが何故か毒見役、という不条理さに立場を超えた親子のドラマがあるんですよね。

悲愴になりすぎず、吉宗を愛嬌のあるダメな父親風に描いたのも新鮮だった。

権謀術策渦巻く政治の世界で知恵を絞り、なんとか吉宗の治世を安泰なものにしようと暗闘する主丞の姿には、深い父と子の絆を柱とした情の物語がある。

このまま吉宗の行く末を描いていたら凄い作品になったのでは、と思われるのですが、なぜかストーリーは中盤から主丞とその妻の諸国行脚漫遊記に。

主丞の「乾き」を癒すにはどうすべきか、と考えた末の方向転換なのかもしれませんが、若干ブレてしまったような印象は否めません。

終盤にいたってはほとんど主丞捕物帳か、ってな按配。

うーん、どうしたかったんでしょうか。

序盤のスタイルでは作劇が続かなかった、という事なのかもしれません。

3巻ぐらいまでは滅茶苦茶おもしろいんですが、徐々にクールダウンしてしまったという残念な作品。

ああ、惜しい、の一言でしょうか。

代表作のひとつにもなりえた完成度を誇りながらしぼんでしまったのは歯がゆいとしかいいようがないですね。

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