ケイの凄春

1978年初版 小池一夫/小島剛夕
双葉社アクションコミックス 全14巻

武家社会の体面やしきたりをなげうって、苦界に落ちた愛する女性の行方を捜し、食うや食わずの旅を続ける1人の元武士の姿を描いた時代劇。

あらためて書くまでもなくテーマは純愛です。

基本的に私は恋愛ものとか苦手な方で、ジャンルを問わず年々読まなくなる傾向にあるんですけど、それでもこの作品には舌を巻きましたね。

命がけなんです。

死と隣合わせに生をつなぎながら、1人の女性の面影をただ追い続ける。

うわついた感情なんて欠片もなし。

後ろ指を差され、さげすまれながらも、あらゆる苦難を乗り越えて一縷の望みにかけるその姿は、本気で人を愛するというのはどういうことなのか、饒舌に私達に語りかけます。

というかもう、読んでて泣きます。

あんたどこまでストイックでバカなんだ、と滂沱の涙。

ここまで辛酸を舐めさせておいて、二人が出会えない、なんてことになったら小池一夫殺してやる!とまで、読んでて感情移入してしまった私なんですが、そこはさすがに劇画の大家、きちんとクライマックスは用意周到にセッティング。

ものすごい画が待ち受けてる、とだけ言っておきたい、と思います。

さらにこの作品が凄かったのは、その後の顛末まできちんと描かれていること。

恋は熱病、なんてつっこみをいれる余地すらなし。

武家社会から脱落した人間が、その後、どう生きていくかまでをきちんと物語にしているんですね。

己を偽らず、人を欺かず、真摯に生きていくとはどういうことなのか、時代は違えどこれはもはや指南書の域。

子連れ狼を筆頭とする一連の作品とは真逆にある「生をつらぬく」こと、それを切々と語りかける大作。

文句なしの名作でしょう。

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