スパイダーマン

スパイダーマン

1970年初出 池上遼一/平井和正
メディアファクトリーMF文庫 全5巻

アメコミのスパイダーマンを日本向けにアレンジして漫画化した作品。

たいていこの手の企画ものって、中途半端でゆるい出来になるんですが、本作に限っては、それは違う、と断言してもいいかもしれません。  

最初の数話はアメコミと微妙にかぶってるんですが、途中からどんどん独自路線、オリジナル路線を突き進みだし、あれよあれよとまるで別物に。

どこへ行こうというのか、と読んでる側が焦ってくるぐらいに。

まあ、そもそもの設定が日本人を主人公にして日本を舞台に、という形のものなので、最初から全然違うと言えば違うんですが。

 とりあえずひたすら暗いです。

特に物語の前半は超人的な力を持ったはいいが、それをどう使って良いかわからぬ主人公の苦悩に満ち満ちていて息が詰まりそうになります。 

しかもやることなすこと全部裏目。 

主義とか主張を超えてこんなに「ついてない」ヒーローはそうそう居ないと思う。 

スパイダーマンとして活躍する以前にお祓いにでも行った方がいいのでは、と思えてくるほど。

しかしこのまま裏目裏目の連続じゃあストーリーそのものが硬直していずれ身動きとれなくなっちゃうぞ、と思っていたら、3巻から原作者として平井和正参戦。

これまでの流れがまるでなかったかのように一話完結形式で、俄然物語の精度が向上。

 いかにも70年代らしい権威への反骨精神はまさに平井和正の独壇場で、傷だらけの天使 あたりにも通底するやるせなさが胸を打つ。

とても少年誌掲載作品とは思えない飛ばしっぷり。

後半、その傾向はますます加速し、スパイダーマンとか超人性とかもうほとんどおざなりな状態のまま主人公は社会の不条理さ、どうすることも出来ぬ人としての業みたいなものにひたすら苦悩するんですね。

 というかこれもうほとんど平井和正の「ウルフガイシリーズ」における犬上明をスパイダーマンに置き換えただけ、という気がしなくもありません。 

「悪霊の女王」みたいなキャラすら出てきますし。 

かつて平井和正に熱中していた読者としては、池上遼一の素晴らしい作画もあって思わずのめり込むものもあったりするんですが、でもこれ別にスパイダーマンじゃなくてもいいよね、といった乖離感は連載が進むにつれどんどん加速した、というのは確かですね。

なにもかも平井流に染めてしまう当時の著者の勢いは凄まじいな、と思うんですが、やはり現実にスパイダーマンが立脚するにはどうあるべきか、みたいな部分で、最初の池上遼一の路線を完成させて上げて欲しかった、という要望もなくはありません。

 どこか前半と後半がつながらない印象は拭えぬシリーズではあるんですが、スパイダーマンという、ある意味鉄板の豪華な素材をここまで別物として焼成した、と言う意味で高く評価するのは間違ってないかもしれませんね。

かつて、宣教師の熱心な布教活動によって全世界に流布されたキリスト教が、伝えられた地の土着信仰と交じり合って独自の混成宗教と成り果てたケースって、この作品のようなプロセスの事をいうのではないか、と思ったり。 

なんだか圧倒されます。

便乗商品でしょ、と侮れぬ哲学があります。

一読の価値あり。

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