さるとびエッちゃん

1964年初出 石ノ森章太郎
朝日ソノラマサンワイドコミックス 全2巻

週間マーガレットや平凡、少女フレンド等、掲載誌をかえて断続的に連載された息の長い少女マンガ。

ある特定の年代以上は妙に郷愁をそそるオープニングテーマが特徴的なテレビアニメを即座に思い出されることと思います。

さて私は作者の他の少女向け作品って、読んだことないんですが、本作に限っては、とても男性が描いたとは思えぬかわいらしさに、実に驚かされました。

リボンの騎士に代表される手塚先生の描いた少女マンガの凄さにもかつて感嘆しましたが、負けず劣らずのリリカルな筆致は、さすがはかつて天才漫画少年と呼ばれただけはあると唸らされる事しきり。

ちゃんと少女の目線に立って物事が描写されてるんですね。

さらにこの作品がすごいのは、なんでもありなのかよ、と思わずつっこんでしまいたくなるファンタジックな設定であるにもかかわらず、物語が破綻していない点です。

小学生がですね、大人顔負けの身体能力で怪力で、動物や赤ちゃんと話せて、しかも手品や催眠術の範疇に収まらぬ不思議な術を使い、おじいさんはギルモア博士そっくりで現代科学をはるかに凌駕したテクノロジーを駆使し、お父さんとお母さんは火星の運河に仕事で出張してるんですよ。

いくら忍者の末裔だからといって風呂敷を広げるにもほどがあると思いませんか?ねえ?

もはやそのスペックは神の領域に近いんじゃねえのか、と思わなくもないんですが、不思議とね、それが許せてしまうんです。

こんなルール不在のことをやらかしながら、すべてが身のまわりのささやかなトラブルの解決にしかエッちゃんが心血を注がないせいかもしれません。

少女マンガというカテゴリーに徹すべく、世界の殻を決して割ろうとしなかった賜物かもなあ、と思ったりも。

それになんといってもエッちゃんの造形がかわいい。

ズーズー弁でぱたぱた動き回る絵を見ていると、なんかもう孫を無制限に甘やかすおじいちゃんのような気持ちになってくるんですね。

私にとっては宝物のような1冊ですね。

よく知られている石ノ森章太郎のアナザーサイドが伺える、稀有な傑作だと思います。

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