サイボーグ009

1964年初出 石ノ森章太郎
秋田文庫 全23巻

実は子供の頃から長い間、石ノ森章太郎は鬼門でした。

もちろん仮面ライダーやゴレンジャーは当たり前のようにテレビで見て、熱中した世代ではあるんです。

しかし、こと漫画となると、何がおもしろいのか、さっぱり理解できない。

初めて読んだのは仮面ライダーだったか。

内容よりも、そのあまりにも手塚治虫に酷似した絵柄に子供心ながら引いちゃったんですよね。

子供ってのは意外と大人よりもパクリだとかサルマネに敏感なもんですから。

石ノ森章太郎という大看板をパクリ呼ばわりしてしまうクソガキというのも、今から考えれば一発張り倒してやらねばならんな、と思うんですが、出会いが悪ければなかなかその次に踏み込むことは難しいわけで。

放置したまま約30年。

ご本人が亡くなられて幾年を経て、もう一度読み返してみようか、と思ったのは昨今の漫画文化の衰退も影響している、と言っていいのかもしれません。

良い漫画が読みたい、と思う衝動が私を70年代へと駆り立てた。

で、まず手にとったのが、このあまりにも有名なサイボーグ009。

最初に驚かされたのはブラックゴースト団が実は武器商人であった、と言う設定。

てっきり勝手に世界制覇をもくろむ悪の組織だと思っていましたよ、私は。

アニメ大好きだったんですけどね、そこまで詳細な設定は全部忘れちゃってました。

もちろん物語のデティールにまで踏み込めば、曖昧な部分や、なにやら解せない展開もあったりするんですが、当時の時代背景を鑑みると勧善懲悪なヒーローもので、世界的な紛争の政治的暗部にまで踏み込んだプロットは実にリアリスティックだった、と思います。

このお膳立てがあったからこそサイボーグという荒唐無稽な存在も俄然真実味をおびてくる。

ベトナム紛争地域にサーボーグ戦士達が乗り込んだ回なぞ、一体どうするつもりだ、と本当にはらはらしました。

よく取りざたされるサイボーグという異形の存在の悲哀、みたいなものは、漫画からはさほど感じなかったりもするんですが(なんせ9人もいるので)第一部らしきストーリーの最終回、これにはさすがの私も胸うたれるものがありました。

かなり有名なシーンのようですが、まさか009で泣かされるとは夢にも思ってなかった。

このワンシーンの為だけに全巻購入してもよいと思えるほど。

後期はサーボーグ戦士達が様々な不可解な事件にいどむ、ある種オカルトミステリに近い印象を受けるSF連作になっているんですが、これはこれで大人向きな感じで良。

完結しなかったことが残念ではあるんですが、石ノ森章太郎と言う作家の特性と凄みを再認識したシリーズでしたね。

あ、ここから始まったんだな、と思えるパターンや、様式が結構たくさん発見できたことも唸らされた要因のひとつ。

やはりこれは時代を変えた一作、と言えるシリーズでしょうね。

戦隊もので名を馳せた作者であるからこそ描くことの出来た、人ならざるものの濃密なドラマがここにはあります。

多くの超人たちを描いた漫画は何が源流であったのか、本作を読めばきっとわかるはず。

そりゃ古さは否めません、けど同時に古さを超えたものがあるのも間違いないです。

食わず嫌いで長年放置しててすいませんでした、先生。

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