インド 2014
監督 ラージクマール・ヒラニ
脚本 ラージクマール・ヒラニ、アブヒアット・ジョシ
地球を観測するために、他天体からインドにやってきた宇宙人PKが巻き起こす大騒動を描いたSFコメディ。
まあその、一応便宜的にSFコメディ、とは書きましたが、実際の内容はコミカルな社会風刺劇ですね。
ラブロマンス込みの。
SFなのは初期設定だけ。
むしろ宇宙人云々にこだわりだすと、安っぽさと適当さに出鼻をくじかれるかもしれません。
そこはファンタジーというか、おとぎ話的にとらえておいたほうがよろしい。
過分に80年代的です。
私がすぐ思い出したのは「地球に落ちて来た男」であり「スターマン」。
特にスターマンとは非常に似通った作りです。
監督がやりたかったのは、文化なり慣例なりに毒されていない無垢なる人物がフラットな目線で社会そのものを俯瞰した際、浮き彫りになる矛盾点や非合理性をひとつづつあからさまにしていくことだったと思うんですが、まあ、やっぱりね、手法自体は決して目新しいとはいえないでしょうね。
どっちかというと手垢といったほうがいいかもしれない。
ただ、ヒラニ監督がすごかったのは、たとえ手垢とはいえ、その矛先を宗教の矛盾に向けたことでしょう。
やはりヒンドゥー教徒が国内で8.3億人もいる国で、堂々と信仰の胡散臭さを暴き立てるって、なかなか勇気のいることだと思うんですよ。
誰にでもできることじゃないですよね、後々のことを考えたら。
その反骨心だけでも評価に値する、と私は思いましたね。
また、刺々しくなりすぎないよう非常に気を使って核心に迫ろうとしているのにも感心。
「別の神様への電話のかけ違え」なんてなかなか思いつかないですよ、これ。
シナリオを書き上げるにあたって、相当な熟考と細心の配慮があったことがそれだけでちゃんとわかる。
で、そんな作り込みの確かさは物語の構造にもきちんと反映されてて。
なにげない序盤でのワンシーンが、次々と終盤で胸を打つ場面として形を結んでいくんですよね。
あれが前フリだったのか!ってなもんです。
とてもボリウッドとは思えぬ精緻さ、巧妙さ。
安易にお笑いでお茶を濁してないんですよね。
まあ、お約束のミュージカル風な演出とダンスシーンに若干辟易させられたりはするんですが(ミュージカル苦手なんで)ここまでやってくれたら細かいことは言いません。
153分という長丁場にある程度の体力は必要となってきますが、これをつまらんと言うほど私は屈折しちゃあいないつもり。
既視感は否定できませんが、わかりやすさ、親しみやすさの根底に静かな憤りと問題提議を秘めた優れた作品だと思います。