BLACK TIGER

2015年初出 秋本治
集英社グランドジャンプコミックス 1巻(以降続刊)

国民的漫画「こち亀」の秋本治が週刊連載終了後に手掛けた新作で、いわゆる西部劇ものなわけですが、さあて、これどうなんだろうなあ、と。

「合衆国政府から『殺しのライセンス』を与えられた凄腕女賞金稼ぎのガンアクション」というプロット自体がね、なんの新鮮味もないといえばそうですし。

秋本治じゃなけりゃあ、新連載の許可はおりなかったんじゃないか?という気もしますね。

西部劇ブームが今再び到来!ってわけでもないですしね。

作者の個人的な趣味嗜好が色濃く反映した内容、と言えるんじゃないかと。

ま、作者を含む今の60代ぐらいの人たちってマカロニ・ウエスタン直撃世代ですし、みんな大好きでしょうから。

それを自分の漫画でやってみたかった、というのはわかる。

実際「こち亀」では自分の趣味を前面に押し出して大成功した人ですし、秋本治ならなにをやってもそれなりに仕上げるはず、という期待感込みで現状なのかもしれませんが、「こち亀」を20巻目ぐらいで読まなくなり、作者に大きく思い入れもない私のような読者からしてみたら、なんだか「こち亀」の続きを読まされてるような印象が色濃い。

どこかコメディ調なんですよね。

コメディ調なのが駄目なわけじゃないんですけど、血と硝煙の世界を描く上で落差、メリハリはやっぱり必要なんじゃないか?と思うんです。

私の目には主人公女ガンマンの活躍も、秋本麗子が大暴れしてるようにしか見えないんですよね。

バンバン人が死んでるのに、死んでるように思えないというか。

刷り込みもあるのかも知れませんが、これ、長年ギャグ漫画に携わってきた弊害のような気もします。

見開きページのここぞ!という場面で、主人公の表情に全然「力」がないんですよね。

記号的、とでもいうか。

シリアスな文脈で綴られてるはずなのに、シリアスに感じられない。

しいてはそれが、女ガンマンの凄み、得体のしれない強さを演出する上で、信憑性、迫真性を著しく阻害する。

年齢的なものもあるのかも知れませんけどね。

老いてなお衰えぬ創作意欲には感嘆するしかないんですが、生活ギャグの延長線上でのんびりやるのが一番あってるのでは、という気がしなくもありません。

平和への弾痕(1977)の頃の画力を取り戻せるなら、また全然趣は変わったかと思うんですが、それも難しいでしょうしね。

結局、ずっと「こち亀」を描き続けるしかないんじゃないか?・・そんな宿命にも似た哀愁を、皮肉にも感じた一作でしたね。

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