2021 アメリカ
監督 ジェームズ・ワン
脚本 アケラ・クーパー
夫殺害の疑いをかけられた妻の過去に潜む「とんでもない謎」をショッキングに描いたホラー/スリラー。
もう結論から書いてしまいますけど、いやー、久々に唸らされましたね、この映画には。
どっちかというと安牌というか、冒険しすぎない正統派ホラー「死霊館」(2013~)シリーズで、おそらく満足してるんだろうな(興行成績も良いですしね)と思ってたんですけど、まだまだ枯れてなかったよ、ジェームズ・ワン。
もはや監督、ベテランの域に達してると思うんですけど、この年齢、キャリアで、こうもエグ味の強いホラーを練り上げてくるとは・・・。
もうね、何を言ってもネタバレになりそうで、ほんとに気を使うんですけど、最も強烈だったのは、多重人格とか空想のお友達とか、脳の摩訶不思議な働きを題材とした物語なのかな、と思わせておきながら、いやいや嘘じゃないよ、とばかりに断片的なピースをかき集め、終盤で「衝撃の絵」にしてみせたことでしょうね。
いや、実はね、私、予想はできてたんですよ。
正直言うとオープニングのシークエンスを見ただけで「これってあの監督のあの映画が元ネタなのでは・・」と察してた。
似てるんですよ、演出というか場面構成が。
で、思った通りだったんですけどね、いかに思った通りだったとしても、びっくりして腰抜かしそうになる、ってことは往々にして起こりうるわけで。
うわっ、と小さく悲鳴をあげちゃったよ、私は。
よくぞこんな絵を考えついたな、と。
まさにこりゃ悪夢というか、なんかもう忌み、穢れですらあるというか。
たとえ医者といえどこんなところに学術的興味で手をつっこんじゃいけない、と思えるレベルだったことは確か。
さらにすごかったのは、決定的な事実が判明したそのあとの展開でして。
なんと監督は、主人公の女性をマーベルはだしなダークヒーロー風の扱いで活躍させようとする。
こればっかりは見なきゃわからんとは思うんですけど、ありえない方向性のありえないアクションシーンがあったりするんですよ。
しかも動作設計や連続性にきちんとこだわってたりするものだから空いた口がふさがらない。
ここにきて、今映画界を席巻するヒーローアクションにすら切り込んでくるのか、と。
面白がってるのか、痛烈な皮肉なのか判別つかないだけに、恐怖の奥底から発作的な笑いの感情が湧き上がってきたりもする。
頭、おかしくなるわ!マジで!
ここまでやられちゃあ、もう元ネタとかどうでもいい。
相同の発想が独自の感性、戦略性でもって、全く別次元のホラーへと昇華。
どう考えても続編とか不可能だと思うんですけど(間違いなく衝撃度は落ちる)もし孤高のヒーローとして立脚させうるならDCもマーベルも敵じゃない、と私は思いましたね。
ま、やばすぎるんで絶対やらないでしょうけど。
実質、物語の構造的には、近作で言うならシャマランのスプリット(2017)あたりとそう変わらない、と思うんです(似ているという意味ではない)。
キャラクター及びアイディアの発展のさせ方が尋常じゃないんですよね。
また、それをきちんとエンターティメントの文脈で落としていくのが見事という他ない。
こんなことはまず起こりえない、と鼻を鳴らす識者な方々も中にはきっとおられるんでしょうけど、絵空事を楽しむべき良品と、そうでないお門違いは区別すべきだと私は思うわけで。
ラストが若干、投げ出し気味なのが気にかかりましたが(これですべてよしとはならんだろう、という意味で)どう考えてもカルトな怪作にしかならないであろうモチーフに、よくもまあここまで多彩な興を添えてきたな、と感心させられました。
あと、ちょっと気にかかったのが、序盤から空々しさというか、B級色が濃厚だった点なんですけど、これ、わざとやってるのかなあ。
あの頃の空気感をまとわせたかった、とか。
うーん、良し悪しのような。
わからん。
ともあれ、ホラー初心者には刺激が強すぎるかもしれませんが、売れるホラーって、こういう作品のことだと私は思いますね。
ジェームズ・ワンがこれまで培ってきたものを最大限に生かしたセンセーショナルな一作、見て損はなし。