鏢人 Blades of the guardians

2015年初出 許先哲
少年画報社YKコミックス 1~2巻(全3巻)

中国で100万部以上の爆発的ヒットを記録した剣戟時代劇を、2018年に翻訳出版したもの。

隋末期から唐初期を舞台とした賞金稼ぎの活躍を描いた作品なんですけど、まず驚いたのは中国にも漫画を読む文化があったのか、という点。

調べてみたらかの国では、漫画は「子供の読み物」みたいな扱いで、大人が真剣にのめり込むようなものじゃないといった風潮が長らくあったらしいんですが、それをひっくり返したのがこの作品だったとか。

なんだか昔の日本みたいだなあ、と思ったり。

確かにまあ、いきなりこのレベルの漫画が登場してきたら免疫のない読者はびっくりするだろうなあ、とは思いますね。

作画はしっかりしてるし、漫画の技法、いわゆるコマ割りとか構成とかシナリオ進行とか漫画先進国たる日本の作品と比べても遜色ない完成度。

中国の漫画事情とか全く知らないですけどね、おそらく、赤胴鈴之助とかイガグリくんみたいなのが幅を利かせてたんじゃないかと思うんですよ(間違いなく検閲があるでしょうし)。

そりゃいきなりこんなのが現れたら夢中になる気持ちもわからなくはない。

なぜか時代劇には甘い公安(中共中央宣伝部?)の盲点を作者は上手に突いたよなあ、と。

中国で描き続けるのはきっと想像以上に大変でしょうし、そもそも著作権や印税は存在するのか?と、あれこれ疑問だったりもするんで、ともかくね、ようやく灯った漫画文化の火を消さぬように頑張ってほしいというのが偽らざる心情だったりはするんですけど、それで終わってしまうと提灯記事になってしまうんで。

日本市場を相手にした場合、どうなのか?という論点で書き進めていきたいと思うんですが、やっぱりね、既視感は相当に強いです。

絵柄は井上雅彦風で、多分、無限の住人(1993~)あたりも読んでるんだろうなあ、と思われる現代的な作風なんですが、やってることが小池一夫時代劇なんですよね。

子連れ狼や葬流者に強い影響を受けていることがまるわかり。

で、それってもう日本の読者にとっては過ぎ去りし70年代なんですよね。

今これがうけるなら月刊誌「刃」は休刊しなかったし、小池書院は破産しなかったって話で。

薫陶を受けるのはかまわないんですけど、それを中国舞台でやるなら中国ならではのワンアンドオンリーな世界観が欲しかった。

割とわかりやすくチャンバラ・ファンタジーなんですよね。

主人公である賞金稼ぎにはっきりとした目的意識や行動指針が見当たらないのもあんまりよくない。

結構いきあたりばったりなんですよね。

金にがめついなら金にがめついでいいんですけど、その先になにがあるのかを見せてくれないと見境いなしで粗暴な風来坊が暴れてるだけで終わってしまう。

西部劇っぽい無頼なガンマン風の演出がしたかったのかもしれませんが、勢いで役人殺して自ら窮地に追い込まれてしまうとかあったりで、子供連れてるのにバカなのか?としか私には思えなくて。

冥府魔道を共に行くと誓った拝一刀と大五郎親子の死出の道行を、形だけ真似ても意味ないんであって。

3巻で国内刊行停止になったのも納得ですね。

これをわざわざ読むなら小池時代劇を古本屋で探したほうが満足感を得られると思います。

ただね、元々が日本向けに書かれた漫画じゃないんで。

いつもの調子であんまり辛辣になりすぎるのも、ちょっと大人げない気もしますし。

せっかく砂漠に芽吹いた新芽を手折る趣味はないんで、ここからまた精進してほしい、といったところでしょうか。

いつか、日本人をもうならせる漫画が中国からでてきてくれたら、と思います。

余談ですが中国語版は10巻まで発売になってるらしいです。

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