1972年初出 手塚治虫

手塚青年マンガの中でも群を抜いて暗くて救いのない一作。
戦後の閉塞した村社会で家父長制が生々しく生き残った大地主一家の物語なんですが、作中の、これでもかとインモラルでドロドロの人間関係が目を背けたくなるほど息苦しくて、私は読み進めるのが結構な苦痛でした。
タブーすら臆することなく大胆に描いた筆致は、どこか文学的ですらありますが、ああ、こういうお話は読みたくなかった、というのはありました。
もう、物語が転べば転ぶほど後味が悪くなる一方で。
結局、本当にこういうことがありそうだ、と感じさせるほど登場人物達の姑息さ、醜悪さ、権威主義ぶりが昭和と言う時代を背景に、見事に描けている、ということなんだと思いますが、私はこのタイプの作品の楽しみ方ってよくわからなかったりするんですよね。
ただ、ドラマの濃厚さ、緻密さは手塚作品の中でもトップクラスだと思います。
シナリオ構成の丁寧さは数ある作品の中でもずば抜けてます。
若干、エンディングが放置気味な印象も受けますが、異色の大作としてカウントしていい出来。
でも2度と読みたいとは思いませんね。
先生のダークサイド、毒がもっとも色濃い一作、といえるのではないでしょうか。