イギリス/アメリカ 2020
監督、脚本 ガイ・リッチー
原点回帰というか、いかにもあの頃のガイ・リッチーらしい一作でしたね。
結局、世間が彼に求めてるのはこの手の路線で、それに忠実に答えた、みたいな。
正直、今更ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ(1998)やスナッチ(2000)でもないだろ、と思わなくもない(もう20年以上前ですしね)んですけど、やろうと思えばあれぐらいのことはいつでもできる、と本作で証明しちゃったんで、余計な減らず口も叩けやしない、ってなところでしょうか。
もう、普通におもしろいです。
まず、ゴシップ記者との対話形式で物語が進んでいくのが、どこまで本当なのかわからなくて見応え満点ですし、主人公の過去や現在にびゅんびゅん時間軸が移動する構成も緻密で隙がないし、記者の妄想を映像化する遊び心もユーモアがあってよし、二転三転するストーリーテリングも鮮やか、それでいて台詞回しも洒脱ときた。
熟練の御業ですね。
ぼーっと見てると情報量が多すぎて混乱してしまう人もいるかもしれませんが、むしろここまでボリューミーにエピソードを詰め込んでおきながら、一切の破綻なく絡んだ糸が最後には解きほぐされてしまうことの方に映画ファンは着目すべきであって、これでわかんないとか言ってる連中はもう、切り捨てていいとさえ私は思いますね。
圧巻の完成度だと思います。
自分らしさを手玉に取って、やりすぎないよう、抑制をきかせてる節があるのにも感心した。
完全に理解してるんですよね、この手の映画に何が必要で、どの程度の冒険心が無難であるか。
私はどちらかと言うと、衝動がはちきれそうなんだけど、ギリギリのバランスで商業性を保ってるような映画が好みなんですが、プロフェッショナリズムもここまできたら素直に脱帽ですね。
だって、やろうと思ってもできない監督のほうが遥かに多いですから。
自己分析に長けた徹底的な自己模倣の産物なのかもしれませんが、それが機械以上に完璧なデッサンを誇る秀麗な1枚の絵画であるなら、歴史的傑作に見劣りせず人の目を引くことは間違いないわけで。
こんなの下町の町工場で50年以上旋盤回してる熟練工にしか作れない金属加工品だよ、とおかしな例えが急に脳裏をよぎったりした。
最後の最後に、これでもかとばかりサービス精神たっぷりなどんでん返しが待ち受けてるのもお見事。
満腹ですね。
おかわりは必要ない。
しかし、こんなの撮っちゃって次はどうするつもりなんだろうなあ、と思いますね。
この手の路線からの脱却を試みて制作されたのがシャーロック・ホームズ(2009)であり、キング・アーサー(2017)じゃないのか?と思うんですが、もう別に金太郎飴でいい、と開き直っちゃったんですかね?
アラジン(2019)が爆発的ヒットを記録しましたが、あれは元ネタありきの映画だしなあ。
キャッシュトラック(2021)に期待したいところですね。
とりあえずは、記録的赤字を垂れ流したキング・アーサーからよくぞ復活した、おめでとう、ってことで。
プロの手による衰え知らずな傑作犯罪群像劇。
おすすめですね。