野良人間 獣に育てられた子どもたち

メキシコ 2018
監督、脚本 アンドレス・カイザー

・・・なんとなく展開が読めそうな気もするけど、予想外の驚きがあるかもしれないし、一応見てみるか、と思ったのが運の尽きでしたね。

いやー、もー、してやられました。

さすがはメキシコ映画というか、この映画をなんとしても売らんとするニューセレクトの詐欺まがいな販売戦略に頭が下がるというか。

イサーク・エスバンの珍作ダークレイン(2015)をふと思い出したりなんぞもして。

そういえば闇のあとの光(2012)みたいな前衛実験作もあったな。

決して詳しいわけじゃないですけどね、現代メキシコ映画で「こりゃすごい」と思った作品って、ここ10年ぐらい皆無だったりするわけですよ。

できる人はみんなアメリカへ行っちゃうからね。

ま、本作の場合、作品のクオリティが極めて低いというわけではないんですけど、さりとて突出してるわけでもない、というのがなんとも面倒くさい部分でして。

どちらにせよこの内容で、

心霊現象や猟奇事件を凌駕するカメラが捉えていた恐ろしい狂気とおぞましき戦慄とは?
想像を絶する衝撃をあなたは直視できるか!?

のアオリ文句は、でっちあげと非難されても一切抗弁できんだろう、と。

ホラーかと思うじゃねえかよ!

しかもですよ、

1日約300人、年間約10万人が誘拐され、3万人近くが命を落とすといわれている犯罪大国メキシコ。
身代金目的だけでなく、人身売買や臓器売買の犠牲となっているその犠牲者の多くが幼い子どもたちである…。
南米の山奥からの未体験の衝撃、“ラ・ヨローナ”伝説を遥かに超えた、想像を絶するリアルな恐怖が襲い来る!

ときた。

見た人ならわかると思うんですけど、犯罪大国であるとか、ラ・ヨローナ伝説とか、この映画に1ミリも関係してないから。

よくあるケースではあるんですけどね、もうほんとに「そこまで吹きまくるか?!」って感じですね。

正しい評価を歪めかねないデタラメで悪質なセールストークは、この際消費者庁に取り締まって欲しいとすら思いますね。

つーか、ほんといい加減にしろ。

とりあえず、これから見ようと思ってる人は、

1 ホラーでもスリラーでもない
2 野良人間というタイトルから想起する、子供の姿をした怪物が登場するわけではない
3 ロッテントマト100%は単に見てる人が少なすぎて正しい統計がとれてないだけ
4 全米批評家協会が絶賛したなどという事実はない(ソースはどこにある?)
5 メキシコという土地柄がなにか意味を持ってるわけではない(別に日本でもアメリカでも代替可)
6 倍速で見たくなってもなんとか辛抱できる人向き
7 人生は長いようで短い

の、以上7点を踏まえて視聴に望んでいただくとして。

で、なにを描いてるのか?って話なんですけど、要は獣に育てられたらしき子供を山で見つけた独身中年男性が、なんとかこの子をまともにしてみせる、と奮闘する様子をPOV方式でじっくりと追ってるだけのことでして。

ま、つっこみどころは色々とあります。

なんで山に子供がいるんだよ、ってのがまずあって。

しかも1人じゃないんです。

最終的には3人になる。

いかに80年代の物語とはいえ、子供3人が生きていけるほどメキシコの野生動物は人間が大好きで、人体に有害な病原菌も保有しておらず、深山に食べるものも豊富にあるのかよ、と。

多分元ネタは70年代(もっと前だったかも)に流行した狼少女とか、あの手のゴシップなんでしょうけど「人間が野生動物に育てられるのは生物学的に不可能」とすでに立証されてますからね。

つまりはファンタジーなわけです。

ファンタジーをPOV方式で臨場感たっぷりに撮られてもね、って。

監督は、狼少女は実在する、と信じてたのかもしれませんけどね。

この作品のキモは、獣に育てられた子どもたちを教育しようとする中年男性が、ガチガチのキリスト教信者だった、という設定にあります。

こともあろうに男は、子どもたちに神の存在を認識させ、教えを学ばせようとするんですよね。

そうなったいきさつには、男の育ちやこれまでの挫折経験が密接に関わってたりするんですけど、フォークを持ったこともない子供に神とか、猿に掛け算教えるレベルで無茶振りなわけで。

当然、破綻するんですけど、焦点が当てられているのは盲目的な信心の招く独善性であり狂気で、もしその一点にのみ脇目をふらずに注力してたらまた仕上がりも違ったかな、と思ったりはします。

むしろ、 獣に育てられた子どもたちという登場人物の奇矯な出自が、テーマの邪魔をしているような気配すらあるんですよね。

これがホラーというパッケージではなく、宗教映画的なポジションで人間ドラマだったらカンヌが喜びそう、と思ったり。

メキシコ本国でどういう受け止められ方をしているのかはわかりませんが、すべてにおいてはしごを掛け違えているな、というのが私の感想。

怖いもの見たさな人はやめておいたほうがいいですね。

怖いとか、そういうジャンルの物語じゃないんで。

男の壊れた内面に切り込むと言う意味では意欲作かとは思いますが、あえてその意欲をこの映画で感じ入る必要もなさそうなのが最大の難点でしょうか。

えーと、騙された、ってことなのかな、結局は(そしてこの感想文は冒頭へとループする)。

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