アメリカ 2020
監督、脚本 リー・アイザック・チョン
1980年代のアメリカ南部を舞台に、田舎町に引っ越してきた韓国系移民の「ゼロからの農場経営」を描いた家族ドラマ。
しかしまー、この映画が全米で話題沸騰、サンダンス映画祭で2部門受賞したばかりか、アカデミー6部門にノミネート、というのがにわかには信じられないですね。
はっきり言って、恐ろしく地味です。
それでいて、物語の展開にも大きく意外性はない。
そりゃ文化も人種も社会制度も違う見知らぬ土地に越してきて、何もかもがうまくいくはずがないだろうし、苦難の連続が夫婦仲に暗い影を落とすことも当然ありうるだろう、と。
韓国から実母を呼び寄せたはいいが、高齢ゆえ病に倒れてさらに夫婦の心理的負担が増大する展開も十分予想しうる流れ。
だってトレーラーハウス暮らしで、一家5人ですから。
心躍る愉快なストーリーが待ち受けているはずもなく。
また、監督が結構長回しの好きな人で。
じっくりと忍び寄る悲劇を描写していくものだから、ますます救いの無さばかりが強調されて。
これで演出過剰ぎみに、陰鬱な湿っぽさばかりが誇張されてないのは評価すべきかもしれませんが(子役の無邪気さのおかげか)ま、見てて気分が晴れるものじゃないですね。
私はなんだか、明治時代からおよそ100年に渡って続いた日本人のブラジル移民に関する、いくつかのエピソードを思い出したりしましたね。
多分、こういうことって世界中で起きてたんだろうな、と思うんです。
で、それってやっぱり当事者じゃないとなかなかその苦労は共感を呼んではくれない。
特に私みたいな、単一民族国家に暮らす、生まれも育ちも同じ土地な人間にとっては、歴史を知る以上の実感は得にくい。
平和ボケの保守的組織労働者!と蔑まれそうですが(だってもう若くはないからさー)、せめてアメリカのコリアンコミュニティーでまずは暮らしてみるとか、段階を踏むべきでは、とつい思ってしまう。
あ、これって主人公の嫁の意見に結構近いな。
なんだかんだいって作品に取り込まれてたりするのか?俺?わかんないけど。
どちらにせよ、やっぱりアメリカって、多国籍な移民が作り上げた国なんだな、というのが偽らざる感想ですかね。
かつての自分を、主人公ジェイコブや嫁モニカに重ね合わせて見ることができないと、なかなか感情移入できない内容だと私は思うんですよ。
そういう事があったんだなあ、大変だったんだろうなあ、と思うのと、これはまさにアメリカにやってきたころの俺(私)だ!ではまるっきり温度が違う。
なのでアメリカ本国での評判を真に受けてしまうといささか肩透かし、というのが至極日本人的な反応なのでは?と思いますね。
エンディングがいささか曖昧なのも判断に困るところ。
劇的な逆転劇を最後に用意しないのがいかにもA24だな、とは思いますが「繁茂するセリ(韓国語でミナリ)の象徴するもの」が伝える何かって、身もふたもない事を言ってしまうならあまりに実利からは遠い。
いや、言いたいことはわかるんです、それを希望ととらえる慎ましさも理解できる、けど、事態を好転させるものが何一つ見えてこないままだから、私なんかはもういいからあきらめて引っ越せ!などとろくでもないことを考えてしまう。
どうしても勝てなければ一度引いてみるのも男だぞ、それは決して恥ではない、と北方謙三がいいそうなことを進言してみたくなったり。
私がもっと若い頃に見てたらまた感想は違ったのかなあ、などと思いますね。
それにしても本作の脚本に惚れ込んで映画化にこぎつけたブラッド・ピットの慧眼はすごいな、と。
ほぼ全編韓国語で韓国人メインキャストの映画が全米でうける、と考えた人はほとんど居なかったんじゃないでしょうかね。
パラサイト(2019)という前例があるにせよ、冒険だったと思うんです。
価値があるとすれば、こういう映画を世に送り出すA24という映画製作、配給会社の慣例、先入観にとらわれぬ行動力でしょうか。
その意味では手に取る値打ちはあるかもしれません。
余談ですが、女優賞を受賞したユン・ジョン、私は樹木希林だったらもっとうまくやる、と思った。
ふさわしくない、ってことじゃないんですけどね。