2010~2013年初出 しりあがり寿
エンターブレインビームコミックス
最終的にはすべてがひとつに収斂する計画で連載された、3つの別々の物語。
黒き川は時代も場所もしれない少年の冒険の物語。
RPGっぽいファンタジーではありますが、少年の道行きが7人の悪魔の統括する7つの地獄めぐりとなっていて、よくあるパターンでしょ?と斜に構えることを許さない。
忌まわしさの滲むアクションホラーといってもいいでしょうね。
この手の荒唐無稽な幻覚奇譚は作者お手のもの。
ちょっと少年が優秀すぎるかな、と思わなくはないですし、都合の良さも感じなくはないですが、徒手空拳で無力な子供が苦難を乗り越えていく姿を見てると普通に応援したくなります。
ギャグでかわしてしまう回もあるんですけどね、それも作者の持ち味ってことで納得しましょう。
本書では5つの地獄が描かれてます。
続きはそして、カナタへに収録。
なぜか「金の斧と銀の斧とハミチンさん」という一見無関係そうな短編が中盤に収録されてるんですが、その理由は最後まで読めばわかる。
ちなみに「金の斧と銀の斧とハミチンさん」はバカバカしすぎて呆れてしまう秀逸なギャグ短編。
ラストシーンにはらわたよじれた。
ノアの阿呆船は地球滅亡を予見した博士が見ず知らずの他人である主人公青年とともに、アンドロイドと遺伝子改変された動物を連れ、宇宙に旅立つ物語。
わざと崩して描いたように見える作画が意味不明ですが、あんまりシリアスにしたくなかったんでしょうかね?
前半は過分にギャグ調です。
だんだん怖くなってくるのは中盤以降。
なぜ主人公は取り返しのつかぬ大罪を背負ってしまったのか?強烈な皮肉で情け容赦なく綴られるストーリー進行は、あらゆるヒーローものの薄甘さを嘲笑うような毒で満ちています。
「大抵が、たまたまうまくいっただけの話でしょ?」と作者は夢見がちな我々と主人公を突き放します。
裁判のあとの展開なんざ、むごいの一言。
ま、それでも犯した罪に比べれば生易しいんでしょうけど。
これを笑い無しで描くとどうしようもなく暗くなっちゃうだろうから、あえてナンセンスに、なぐり描きっぽくしてるのかな、と後から思ったりしましたね。
「劣化大学革命同好会」「白いメシ」「ピエタ」の3編を併録。
どの短編も本編にはリンクしてないように思うんですが、箸休めか?
「白いメシ」は完全に往年の赤塚不二夫。
天才バカボンに同じネタがある。
「ピエタ」は黒き川にも登場したハミチンさんが出てくるけど、あんまり面白くない。
物語は宇宙を放浪中なまま中断。
そして、カナタへと続く。
余談ですが、人間の女が乗らない代わりに巨大なipadを乗せるというアイディアには笑った。
アレキサンダー遠征はあの日からのマンガに収録されてそうな内容ですね。
原発事故後の目に見えぬ不安に怯える若いカップルの日常がとりとめもなく綴られてます。
具体的に原発事故、とは書かれてないんですけど、多分まあ、そういうことだろうな、と。
途中から物語は突然虚構性を増していって、なんの前フリも因果も見当たらないままアクロバットな展開へと突入していくんですが、はっきりいって無理矢理ですね。
この3冊の中では一番デタラメが過ぎると思います。
ただそれも、そして、カナタへを読了してないからこそ言えることであって、最後までこのシリーズを追うことができればそれなりの解釈は成り立つ仕組みになってます。
ま、リアルタイムで読んでたら「なんじゃこりゃ」と脱力でしょうけどね。
読者を置いてけぼりにしないための工夫の余地はあったかもしれません。
後半でストーリーは黒き川とリンク。
数ページの短編がいくつか挿入されてますけど(双子のオヤジまで登場する)、本筋とはあんまり関係あるようには思えず。
しかし、斬新な試みだなあ(別タイトルの3冊を一括りに扱う)と思わなくもないんですが、単独でそれぞれの作品を買ってしまうとさっぱりわけがわからない、というのが難点でしょうか。
知らない人は完全に置いてけぼりですね。
そして、カナタへを含めて同タイトル全4巻でも良かったのでは・・・という気がしなくもありません。
ギリギリのラインで物語性の解体をやりたかったのかな、と思ったり。
ともあれ、どれも途中で終わってるんで、最終的な評価はそして、カナタへのページで書きたいと思います。