殺されたミンジュ

韓国 2014
監督、脚本 キム・ギドク

女子高生を無残にも殺した連中を、実行犯も含め計画者すら一人づつリンチしていく謎の集団を描いたバイオレンスなスリラー。

はて?リベンジもの?それとも法で裁けぬ悪を討つ正義の執行者の物語?と最初は思ったんですが、違った。

どうもキム・ギドクは、反権威というか、社会的地位と財力に物を言わせて人の命すら軽んじる連中に、底辺でうごめく貧乏人たちがしっぺ返しをくらわすさまを活写したかったようで。

いわば階級社会、格差社会への憤りですわな。

女子高生ミンジュ殺害事件そのものはきっかけにすぎない。

普段は色んな事情で苦しい生活を余儀なくされてる奴らが「こんなことが許されていいのか!」とばかりに連帯し、非合法に罪人たちを責め立てていくわけです。

目的は「私は事件に関与した」との証文をとること。

その先に公権力による裁きや収監が待っているわけではない。

弱みを握ることが第一義なんですね。

正義を気取ってはいますが、根底にあるのは「おまえらばっかりいい思いしやがって」みたいな、恨みであり、そねみ。

なのでどこに共感していいのかよくわからない、ってのはある。

行動倫理に大人の抑制心がないんですよね。

それでいて自分たちの保身には余念がない、ってのがまた小物感全開で。

毎回、メンバー全員が軍隊風だったりスパイ風だったりに変装するんですけどね、これがもうなんのコスプレなんだよ、と失笑が漏れそうになるお粗末さで。

監督の演出のせいもあるんでしょうけど、ひどく子供っぽいんですよね。

そんなの、すぐにバレるに決まってるだろうが!と観客側がつっこみたくなるような、お遊び風のコント仕立てで。

なんだか70年代日本の学生運動みたいだなあ、と思ったり。

で、この作品がよろしくなかったのは、ジョーカー(2019)と似たテーマを掲げつつも、細部や現実味にこだわることなく寓話風に物語をまとめ上げてしまったことでしょうね。

現実にリンクしてる、と感じさせるからこそ物語も肉感的になるわけで。

ちょっとした憂さ晴らしの拉致監禁のつもりが、エスカレートしすぎて、最終的には貧乏人同士が揉めだすんですけどね、それをギドクは「おまえたちも結局は犯人どもと同じで、自分の意志を持たないデク人形だ」と皮肉りたかったのかもしれませんが、その前にミンジュ殺害の背景をちゃんと見せてくれないと、って話で。

なぜ殺されたのか?がものすごく重要なのは間違いないと思うんですよ。

その理由如何によっては、主人公たちがやってる拉致監禁がまったく見当外れな行動になる可能性も残ってるわけですから。

ただ茫漠と、金持ちに殺された→許せねえ→お仕置きだ、じゃあ「叩かれてるみたいだし俺も叩いとこう」と盲目な正義を振りかざす、ネットの炎上騒ぎに加担する連中と同じ。

えっ?ひょっとしてそういう事が言いたかったの?この映画?

ネットのリテラシーを憂慮する気持ちを、ここまでの大風呂敷で伝えたかったわけ?

ラストシーンなんて、愚直すぎていたたまれない感じなんですけど?

うーん、わからん。

なんか小規模で気合入ってない過激派の内ゲバを見てるような気にさせる映画でしたね。

好みの問題なのかもしれませんが、私はどうせなら「貧乏人の矜持」みたいなものを最後には示して欲しかった、と思いますね。

赤の他人の死に、視野狭窄で狭量な社会批判と正義を封じ込めるのではなく。

胸張って貧乏なんだよ、それでも許せないことはある、としたほうがよほど響いた。

どうにもペシミスティックなんですよね。

どいつもこいつもろくでなし、みたいな感じで。

あと、ここ数年ずっとギドクは「寓話風」で作劇をごまかしてる気がしますね。

瞬発力と思いつきの映画作りが加齢とともに、もう限界に来てるのかもしれません。

一人で脚本も撮影も編集も全部やる、ってのもやめたほうがいい。

プロらしくない仕上がりが随所で目につきすぎる。

マ・ドンソクがリーダー役で出演してて驚きましたが、それ以外はおすすめできる出来とは言い難いように思います。

3大映画祭を制覇した名匠と言われてますけどね、なんか世界中が騙されてたんじゃないか?という気もしてきた今日このごろ。

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