2011年初出 しりあがり寿
エンターブレインビームコミックス
<収録短編>
地球防衛家のヒトビト(抜粋)
海辺の村
川下り双子のオヤジ(抜粋)
希望✕
震える街
そらとみず
東日本大震災後に描かれた四コマや短編をまとめた一作。
日本は終わってしまうのか・・・と、誰もが絶望に襲われた原発事故の翌日にはもう、朝日新聞に四コマ描いてる(地球防衛家のヒトビト)ってのが凄いとしかいいようがないんですが、しかもそれがギャグ漫画だというのがプロの鏡と言う他ないですね。
マンガなんか描いてる場合じゃねえ、って話ですよ、明日どうなるかもわからないのに。
それでもあえて筆をとる作者の決断力には感服するしかないし、ほんと頭が下がる。
批判や中傷もあった、と思うんですよね、詳しくは知らないですけど。
現在進行系で苦しんでる人もいれば、メルトダウンを阻止できるかどうかもわからんのにマンガとか、ふざけんな!って人は絶対いたと思うんです。
休載が無難ですよ、どう考えたって。
なんせ新聞掲載ですからね、見てる人の数が漫画週刊誌とは桁違いですから。
でもやる。
それしか自分にはできることがないから。
ほんのささやかな「緩和」になる可能性も、きっとゼロじゃない。
ま、全部私の想像なんですけど、いったい何人の漫画家がこれだけの行動力を示せたか?と私は思いますね。
マンガばっかり読んでる私のような痴呆中年ですら、3.11のあと数週間は何も読む気が起こらなかったぐらいですから。
発信し続けることが誰かの慰めになる可能性があるなら、どれほどの罵詈雑言を浴びようとやり続ける覚悟がないとできないことだと私は思いますね。
過去作で、憤りにかられながら多くのカタストロフを描いてきた漫画家としては、それが現実にシンクロしたからこそ黙ってられなかったのかもしれませんが。
秀逸だと思ったのは「海辺の村」。
世界の有り様をまるごと変えてしまいそうな災厄がリアルに起こった時、じゃあ次になにを描くべきなのか?と問われれば、それは「建設」に他ならないわけであって。
SFが世界の写し鏡なのだとしたら、変容がもたらす結果を描写することこそが想像力の働かせどころであって。
あの大厄災からわずか1ヶ月後に、こんなSFファンタジーを形にする手練は見事としか言いようがない。
変わってしまったかもしれないが、そこには希望もある、としたラストシーンはドラマチックの一言。
セリフなしで観念的な作品ではあるんですが「そらとみず」も秀逸。
これ、実際に被害を受けた人が読んだら泣いてしまうんじゃないか、と思う。
直接的な影響を被ってない私のような人間ですら涙腺に直撃したぐらいですし。
川下り双子のオヤジは同社同タイトルの単行本でも同じ作品が読めるし、おそらく地球防衛家のヒトビトもそう、時系列にこだわった寄せ集め的な印象もある短編集ではありますが、不安だらけの日々を綴るだけの反原発な芸なしエッセイ漫画に比べたら、現実を創作へと昇華した凄みが際立つ優れた短編集だと思いますね。
エンターブレインの仕事の速さも良。
マンガができること、を考えさせられた1冊でしたね。