ファンタジー、おじさんをつつむ

1996年初出 しりあがり寿
エンターブレインビームコミックス

いわゆるモーレツ社員(死語)であり、24時間働けますか?(リゲイン)と問われて、本当に働いてきた団塊の世代や社畜たちの、逃げ場のない苦悩を描いた連作短編集。

高度成長期ならいざしらず、バブルが崩壊して、がむしゃらに滅私奉公で働くことがむしろ組織改革の邪魔になってきてるのに、それにさっぱり気づかぬ頑迷な中高年が毎回登場してきて空回りする、もしくは窓際で空気状態、という、なんとも物悲しい気持ちになる一冊となってます。

私自身は中途半端な不良従業員のまま年齢を重ねてるもんですから、会社に人生のすべてを捧げるだなんて「バカなんじゃねえのか」としか思えないんですけど、私より上の世代の人たちの後ろ姿はそれなりに見てきてるんで、その生き方や行動原理は理解できるつもりなんです。

ああ、愚かだなあ、と思うんですけど、それも豊かさを知る世代だからこそ言えることであって、戦後焼け野原を経験していたら私もどうなっていたかわからない。

というか広い意味でこの物語が訴えていることって、抗えぬ老いが招く「ついていけなさ」であってね、それはすでに中年である私も決して除外されるものではない。

私より若い世代の社員が私のことをどう思ってるか?なんて、内面まではわからないですしね。

なので共感できる部分はもちろんあるし、同情を禁じえない、と素直に思ったりもする。

一応ね、それなりの救いは毎回描かれてるんですけど、これがもうどのオチを見返してみても現実から逸脱することで心の安寧を得るパターンばかりで。

救いはもう、今生には存在しないんだよ、と悟らせてどうする、って話だ。

まさにタイトルどおりファンタジー。

これ、似たような立場にある人が読んだら号泣するんじゃないかと思いますね。

「救い」を描くことで、かえって「救いはない」ことを強調してるんですよ。

ただひたすら哀しい、としか言いようがない。

ギャグ調のストーリーやホラータッチの作品もあるんですが、一貫して物語の根底に流れるのは、必要とされなくなった人たちへの挽歌であるような気がしますね。

少し残念だったのはどの短編もオチにパソコンやインターネットが絡んでること。

職場にWINDOWSがまとめて導入された頃ですから、使えない老骨との対比として格好だったんでしょうけど、それにしても使いまわしすぎ。

ま、これも時代を反映してるってことなんでしょうかね。

読む人の年齢にもよるのかもしれませんが、なんか爪痕を残す一作ではありましたね。

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