日本 1974
監督 小沢茂弘
脚本 高田宏治、鳥居元宏
国内のみならず、世界に空手ブームを巻き起こし、広くサニー千葉の名をとどろかせた千葉真一の出世作。
すでにテレビドラマ「キイハンター」(1968~)で不動の人気を得ていた千葉真一ですけど、アメリカやヨーロッパで認知されたのはこの作品がきっかけでしょうね。
The Street Fighterのタイトルで公開されたらしいんですが、たった3週間で全米興行ランキングベスト5に躍り出た、ってんだから当時の熱狂ぶりが伺えるというもの。
黒澤明の作品ですらミニシアターで上映されてた程度だったらしいんで、あまりの反響の凄まじさに東映の担当者も驚いたんじゃないでしょうかね。
批評家連中は「ブルース・リーの舞踊劇的な功夫と違い、ワザと力がより本物に近く、迫力がある」と評したらしいんですが、それはちょっと褒めすぎでは、という気がしなくもありません。
どちらが上、とは断じませんが、ブルース・リーより凄いというのは贔屓がすぎるというか、持ち上げすぎ。
かほどに衝撃的だった、ということなんでしょうけど、ま、初見でそう言いたくなるのも少しはわかる。
私がこの映画を見たのはもう数十年前になりますが、主演の千葉真一のアクションにはぶったまげましたしねえ。
動きがどうこう、ってのじゃなくて、その佇まい、表情、威圧感みたいなものが尋常じゃないんですよ。
なんかもうおかしなところのスイッチが入っちゃたのか?みたいなレベルで突然別人なんです。
正直ね、過剰すぎて笑いと紙一重な部分もありますけど、一撃必殺の凄みをラジカルに演出する上で、この狂気漂う憑依的演技は作品の底上げに大きく貢献していたように思います。
千葉真一が実際に大山倍達(極真空手創始者)の弟子であった、と言う事実も影響してることでしょう。
なんせ極真だからな、寸止め無しで牛殺しだし・・・と変に納得してしまう自分がいたりする。
あらためて見直してみると、相手の動きとあんまり噛み合ってなかったりはするんですけどね。
映画の場合、プロレスと同じで上手に技を受けてくれる人がいないと格闘シーンも成立しないですから。
当時の日本では、千葉の動きにうまく呼応できるアクション俳優が存在しなかったんでしょうね、きっと。
そういう意味では千葉真一の一人舞台というか、演舞に近い印象もある。
一人でこの絵(格闘場面)を成立させてしまう、というのも逆に凄かったりはしますけどね。
ストーリーそのものは、いかにも70年代東映って感じで、安っぽい裏社会もの、と言っていいでしょう。
つっこみどころは無数にあります。
ありすぎていちいち書くのも面倒。
せめて外国人役には外国人を起用してくれよ・・・と思うんですけど、そんなルーズさも許された時代だったんでしょう。
主人公が非情なアンチヒーローなのも70年代ゆえか。
あと、JACの志緒美悦子が助演してますが、あまりに汚れ役でちょっとひきました。
どんな役でもいいから出してやってくれ、みたいな裏交渉があったのかもしれませんけどね。
これもアクション女優としてやっていくための試練、と割り切っていたんでしょうか、全力で体当たりです。
こんな映画にそこまでしなくても、と思わなくもないんですが。
忌憚なく書くなら、映画としての完成度ははっきり言ってB級で凡庸だと思います。
シナリオも演出も決して褒められたものじゃない。
それを主演の千葉真一が、たった一人でエポックメイキングな作品に染め替えてしまった、と言っていいでしょう。
面白いのか?と問われて、タランティーノやキアヌ・リーブスのように大興奮して語りだすことは私の場合、まずないんですけど、千葉真一の何が凄いのかよくわからない若い世代の映画ファンは見ておくべきだ、とは思います。
なんだろ排気量が違うというか、熱量がモンスタークラスというか。
間違いなく令和の時代には存在しないスターであることを実感できるでしょう。
ちなみにシリーズは4作目まで作られたらしいんですが、私は未見。
世代的に、時代劇に進出して以降のほうがどっちかというと馴染み深いですかね。