楳図かずお こわい本

1960年~初出 楳図かずお
朝日ソノラマ文庫 全14巻

<収録短編>
1巻 鏡、復讐鬼人
2巻 蝶の墓
3巻 おそれ、偶然を呼ぶ手紙
4巻 闇のアルバム、本、ダリの男
5巻 口が耳までさける時、ヘビおばさん、蛇娘と白髪魔
6巻 うろこの顔
7巻 残酷の一夜、死者の行進、地球最後の日、人喰い不動、肉面
8巻 ふりそで小町捕物控、凍原<ツンドラ>、手、雨女、面、スクール
9巻 谷間のユリ、ねむり少女、木の肌花嫁、恐怖人間
10巻 紅グモ
11巻 首、独眼鬼、怪獣ギョー、悪魔の手を持つ男、笑い仮面(前編)
12巻 笑い仮面(後編)
13巻 半魚人、ひびわれ人間、恐怖の首なし人間
14巻 楳図かずおの呪い、悪夢の数式

収録されている作品の発表年代に、およそ15年程度の開きがあって、しかも少年誌から少女誌、青年誌、学習誌と掲載誌のジャンルもバラバラなんで、なんとも集中しにくいというか、落ち着かない収録内容のシリーズとなってます。

一応、各巻ごとに「蛇」だとか「異形」だとかテーマ分けがなされているんですけど、短編ごとに全然絵柄が違ったり、突然内容が幼稚になったりするんで作者の熱心なファン以外にアピールするものは少ない気がしますね。

ま、朝日ソノラマらしい仕事というか編集というか。

ぶっちゃけ8割方の作品が、ホラー漫画黎明期のクラシックと呼んで良い部類だと思うし、今となっては題材もテーマもストーリーも古色蒼然としているように思います。

通読するのにひどく疲れる作品もいくつか(言葉は悪いですけど、子供だまし過ぎて)。

名のしれた短編、中編もいくつかありますが、ホラー擦れした現代の読者に響くのは「蝶の墓」「楳図かずおの呪い」ぐらいでしょうかね。

ただこれも、厳密に言うなら「蝶の墓」はサスペンス/スリラーだと思うんで、ホラーとはまた違った怖さですし(オチが秀逸で唸らされます)、直截に怖いと言えるのは 「楳図かずおの呪い」だけかもしれません。

とりあえず第一話には震え上がりましたね。

よくぞこんな絵面を思いついたことだな、と。

あと、ホラーではありませんが美醜をテーマに描いた「谷間のユリ」が傑作。

うつろう女心を残酷かつ繊細に描写してて、なんだよこれ、文学かよ!と言いたくなるレベル。

とても男性が描いた作品とは思えない。

カタストロフを時間で道具立てした「地球最後の日」もSFとしては良く出来てる。

こういう物語を66年に発表したりするから楳図かずおは侮れない。

残酷もの時代劇も何編か収録されてます。

しかしこれ南條範夫の影響なんでしょうかね?調べたけど、わかりませんでした。

独特のいやらしさがあるな、とは思うんですが、ま、残酷ものなら平田弘史の右に出る者はいない、と私は思うんで。

個人的には「ふりそで小町捕物控」もかわいらしくてちょっと好きですね。

病身のおとっつあんの代わりに娘のひとみが十手を携え、子供とは思えぬキレッキレの推理で猟奇な事件を解決していくストーリーは某探偵コ◯ンなんぞより遥かに痛快。

長期連載できるプロットだと思うんですけどね、なぜか3話で終わっていて残念。

石ノ森章太郎がやりそうなネタだなあ、と思ったりもしますが。

総ずるなら、今読んで感銘を受けるのはせいぜい単行本2冊分ぐらいの分量かと。

ここに手を出す前に読むべき作者の著作は他にたくさんある気がしますね。

ちなみに先行して発売された新書判全15巻にだけ収録されている短編もあるようです。

詳しくは調べてないですけど「映像」という作品は文庫版にはないですね。

私は文庫版未収録作品のためだけに、すごい値段がついてる新書判を購入する気にはなれませんでしたが。

2021年6月から新装版が角川書店より刊行されてるみたいなんで、興味を持たれた方はそちらを買ったほうが良いかも。

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