アメリカ 2020
監督 ジーナ・プリンス=バイスウッド
原作・脚本 グレッグ・ルッカ
おそらく中世ぐらいから存在する不死の軍団(と言っても4人ですが)の知られざる戦いの日々を描いた人気グラフィックノベルを映画化した作品。
ありがちなプロットだなあ、と思わなくもないんですが、原作者が利口だったのは不死の軍団に善悪の役割(光と闇の戦い、みたいなね)をふらず、かといってヴァンパイアというわけでもない、とした初期設定を用意した点でしょうね。
ある日突然、気がついたら不死になってた、という突拍子のなさは、意外と目の肥えた観客ほど受け入れやすい非現実だと思うんです。
なにか目的があるわけでも使命を課されているわけでもない。
ただ目の前に横たわるのは無限の時間。
じゃあこの虚ろさを埋めるために、せめて人のためになる働きをしよう、と考えるのは普通の人間として真っ当だと思うんですよね。
最初の動機に無理がない。
多くのアメコミ・ヒーローたちの立脚点より、はるかに自然なように私は感じるんです。
物語はこれまであまたの人々を救ってきた不死の軍団が、倦み疲れ切った場面からスタートします。
影になり日向になり、善良なる人々の助けをしてきたが、世界はまるで良くならず、悪くなる一方だ、主役のアンディは独白する。
もういいんじゃね、疲れたわ・・・って感じなんですよね。
そこに登場するのが、200年ぶりに現れた新人、ナイル。
さて不死の軍団はうら若き乙女である不死者を新たに迎えて、今後どうなるのか?が物語の見どころ。
私がよく出来てる、と思ったのは、たとえ不死だからとはいえ中身は普通の人間と何も変わらない、と訴えかけている部分ですね。
いうなれば不死の軍団、恐ろしく長寿な亜人種とも言えるわけです。
大前提として人類と共存するのはひどく難しい。
そこにマイノリティの悲哀がある。
描かれているのは、無私の奉仕者として生きようと決断するも、迷い、苦悩し、目的を見失いつつあるひとりの人間の再生のストーリー。
監督はその心の機微を新人不死者の視点でつまびらかにしていく。
また小さなドラマ作りがうまいんですよ、この監督。
話題になったLGBTに言及したシーンもそうだし、特に私が感じ入ったのは薬局でのやり取りのシーン。
些細な出来事なんだけど、こういうわずかながらの優しさに触れることで人はまた立ち上がることができるんだ、と素直に思える。
アクションシーンのスタイリッシュさもこの手の映画の中では上出来の部類。
多分、早回しとかしてる箇所もあるんでしょうけどマーシャル・アーツ?っぽい動きをベースにした投打の組み立ては、マーベル映画にも全く引けを取らない。
もう、シャーリーズ・セロンがかっこよくてねー。
アトミック・ブロンド(2017)でも格闘シーンは披露してますし、初めてではないんでしょうけど、とても44歳の動きではないです。
いかに彼女をかっこよく撮るか?ということにちゃんと監督は心砕いてる。
よりにもよって終盤で「不死者の死」の要素を放り込んできたシナリオ展開もいい。
いつしか新人ナイルの生き方を問う物語にシフトしてたりするんですよね。
ま、若干ね、前半と後半で主人公アンディのキャラに温度差がありすぎる、と思いましたし、不死の軍団を超常視しすぎてて、何でも可能な風に描きすぎ(デティール、経過が略されてたりとか)では?と首を傾げたりもしましたが、不死である自由度を窮屈さ、無常さに置き換えた作劇はNetflix限定にしておくには惜しい完成度だ、と感じました。
ここ最近見たSFアクションの中ではトップランクですね。
続編を作る気まんまんのラストシーンでしたが、発表されたら間違いなく見るな、これ。
Netflixで最も再生されているオリジナル映画(2021年現在)であることも納得の、おすすめの一作。