リトル・ジョー

オーストリア/イギリス/ドイツ 2019
監督 ジェシカ・ハウスナー
脚本 ジェシカ・ハウスナー、ジェラルディン・バヤール

その匂いを嗅ぐと、幸せな気持ちになる効果がある新種の植物「リトル・ジョー」を育成する研究者の不測の事態を描いたスリラー。

遺伝子操作された花、という設定から、私はすぐにトリフィド(トリフィドは肉食植物ですけど)を思い出したんですけど、作り手側はトリフィドの日(1951)をさほど意識してない様子。

知らないのかもなあ、有名なイギリスのSF小説なんですけどね、ま、古い本ですし。

この内容だと、どっちかといえばボディ・スナッチャーズ/恐怖の街(1956)に近いかもしれませんね。

で、その両者がすぐに脳裏をよぎる、ということはプロットに新鮮味がない証拠だったりもするわけです。

大枠でのテーマは「進化しすぎた科学、自然を無視したテクノロジーが人類に牙をむく」的な、古臭い便法を流用したものですしね。

いやね、まさかそのまま最後まで突っ走っちゃうとは思わなかったものだから。

とりあえずね「リトル・ジョーの花粉が嗅覚情報を刺激し、大脳辺縁系に作用することで感情を司る」とした疑似科学的なうんちくは悪くなかったんですよ。

でもそれが個人の性格や行動をも変えるとなると、さすがに飛躍が過ぎるかな、と思わなくもなくて。

生物の生存本能が働きかけた結果だとするには、もっともらしさを伴う説得力に欠けていて。

要はハッタリがきいてない。

そういうことならこういう事態も十分に起こりえるかもな・・と観客が納得するプロセスの描写をすっ飛ばしてるし、リトル・ジョーだからこそこうなったと思わせる、それらしい育苗の背景も作り込まれてない。

ストーリーの進行も冗長。

もう、主人公の周りは敵だらけになることが序盤で容易に予想できちゃうんだから、それをスリルで彩れなくてどうするんだ、と。

正気じゃないのはひょっとして主人公?とミスリードするぐらいの虚々実々な駆け引きはこの手の映画の常套手段でしょうが、と。

なんだかもう、なすがままに追い詰められちゃってるんですよね、主人公。

幾何学的な規則性で頭を垂れるリトル・ジョー生育室の原色な絵面とか、妙な薄ら寒さがあって悪くなかったんですけどね、シナリオにもう一捻り欲しかった、というのが正直なところ。

実はリトル・ジョー、全く無関係で原因は別にあったとか、全ては主人公を陥れるための罠だったとか。

あんまりエンタメにしたくなかったんでしょうかね?なんせジェシカ・ハウスナー監督だからなあ。

10年ぶりの新作ということで期待するものもあったんですけどね、前作のほうがよっぽど謎めいて暗示的でしたね。

佳作でしょうか。

ちなみに見終わった後の後味はあんまりよくないです。

ただそれも、予想できるものであったな、と私は思った。

あと、念の為に書くけどフラワーロック(タカラトミー)とか、思いついても言うな。

そういう映画じゃねえから、いやほんと。

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