ディック・ロングはなぜ死んだのか?

アメリカ 2019
監督 ダニエル・シャイナート
脚本 ビリー・チュー

バンド仲間の突然の死を、事故として隠蔽しようとするメンバー二人の「公にはできない秘密」に迫ったサスペンス風の家族ドラマ。

まず最初に言っておきたいのは、これひょっとすると普通にコメディかもしれない・・ということ。

中盤ぐらいまで結構真面目に見てたんですけどね、どうして警察の目を欺いてまで主人公は仲間の死に無関係を装おうとするのか、その謎が明かされた時点で私はあっけにとられて。

いやいやマジか、と。

えっ、これは笑うべきなのか?と。

というか、こんなネタを物語の重要なオチに使う?みたいな。

ぶっ飛んでる、というか、さすがA24というか。

もうね、そっとしておいてあげましょうよ、こういうのは他人がうかつに触れちゃいけないんだよ、治らない病気(身体的、先天的な意味でなく)なんだから、とあたしゃほんと思った。

人が死んでるんだし、見てみぬふりはできない、というのはよく分かるんですけど、待ち受けてるのは途方も無い脱力感、ないしは呆れてものも言えない徒労感ぐらいのものであって。

トホホの事件簿、とでも言おうか。

なんだそれ。

いやもう実に主人公の奥様の気持ちがよく分かりますね。

ハリウッド映画見てると、私の場合、なんでアメリカ人女性はこうも簡単にキレて手がつけられなくなるんだ、と思うことがよくあるんですけど、本作に限っては圧倒的に奥様が正しい。

そりゃ激しく気も動転するし、喚き散らしたくもなれば、即離婚を決断したくもなるわ、と納得。

しかし役者陣はよくぞまあ真面目に演技できたことだよなあ、と思います。

私なら多分集中できないし、どこに気持ちを持っていけばいいのかわからないし、ひょっとしたら吹き出してしまうかもしれない。

ま、もっともらしいことを書くなら、暴かないほうがいいことも世の中にはある、ってのを下世話なアプローチで知らしめたのがこの一作なんでしょうけど、それをこんな題材で教えてもらいたくはないわ!ってツッコミも余裕で成立しちゃうのは確かでして。

これを「遊び心」と呼んでいいのかどうか、悩むところですね。

とりあえず「誰にも言えない秘密」も、当事者が公権力に特定されるとこうも恐ろしい事態に発展するのか・・・と思い知らされた、ってのはありますね。

どこかファーゴ(1996)のパロディっぽい質感もあり。

もー、ほんと公序良俗に抵触するようなことは、誰に迷惑かけてなくともやめといた方がいい。

そんなことを粛然と考えたりもする作品でございました。

怪作と言っていいでしょうね。

さすがはスイス・アーミー・マン(2016)の監督が撮った作品なだけはある。

面白いのか?と問われればちょっと首を傾げちゃうし、もうちょっとふざけててもいいんだよ、と思ったりもしなくはないんですけど、誰もこんなの映画にしようと思わない、という点では突出してるかも。

ちなみに再出発を暗示するラストシーンは、これ本気で撮ってるの?!と少し笑った。

その前に専門の治療プログラムにでも申し込みなさい!って話だ、うん。

この内容で、可笑しくも哀しいバカ映画な仕様だったら個人的な評価はもう少し高かったかもしれません。

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