エコー/ゼオン

2010年初出 六道神士
角川書店コミックエース 全3巻

それぞれの特技を生かして、なんでも屋的商売を営む3人組を描いた学園もの。

ありがちなプロットかな、と思いきや、これがどうしてどうして、なかなか一筋縄でいかない仕上がりであなどれません。

私が感心したのは、3人組のキャラ立てのみならず、その人間性、背景、家庭環境にいたるまで、緻密かつ丁寧に作り上げられていること。

財閥の令嬢ながら相続問題に振り回され天涯孤独な身の通古賀紫、一見デブだが道場の跡取り息子で恐ろしく腕の立つ星丘高雄、音で世界を見る特異能力をもつ聖観世、どの人物をピックアップしたとしても、それだけで当分物語が編めてしまうほどの密度、質量なんですね。

実際、ストーリーは3人それぞれに焦点を当てたシナリオだけでほぼ2巻分ぐらいを費やしてます。

もうこれなんでも屋とか、完全に余録じゃん、と思えてくるほど。

なのにそれが滅法面白い、ときてる。

特に聖観世が、なぜ自分の声を持たないのか?に迫った数話なんて心かき乱される出来でして。

いうなれば金も権力も武力もリミッターを外せば普通の学生以上に使える二人が、なにをどうしたところで手も足も出ない「悲しみ」が、澱のように観世の心の奥底に淀んでたりするんですよね。

こういう領域に踏み込んでくるのか、この物語は、と。

学園の事件解決とかどうでもいいから観世を救ってあげて!と思ったし、通古賀紫もいずれは幸せにしてあげてほしい、とあたしゃ読んでて年甲斐もなく夢中に。

この手のシリアスなドラマをもコメディタッチで料理する作者の手腕も素晴らしい。

重くなりすぎず、笑いに逃げるわけでもないバランス感覚が絶妙。

若干のSF風味、突飛さも物語の隠し味として見事に機能。

いや、これこそ漫画ならではの軽妙さが小気味よいハイレベルな学園ものでしょう、と私は思うんだけど、なぜか3巻にて打ち切り。

これが人気でないのかー・・・と呆然ですね。

ヤングエースという雑誌をどういう読者層が読んでるのかさっぱりわからないけど、水が合わなかっただけ、としか考えられない。

多分、作者はもうちょっとじっくり巻を重ねて描くつもりで設定を練ってた、と思うんです。

でなきゃ「まだ高校生だった頃、1999年の物語」なんてモノローグを第一話に入れたりしない。

つくづく最後まで描いてほしかった、と思いますね。

エクセル・サーガ(1996~)を経て、さらにその実力に磨きをかけてきた六道神士の隠れた傑作だと思います。

ああ、もったいない、の一言ですね。

物語は結末を迎えてませんが、それでも読んで損なし、と推す次第。

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